メゾネットの上階に設けられた、屋根裏部屋のようなオフィス。日本のゲームデベロッパ、株式会社オインクゲームズ(以下Oink Games)の仕事場兼打ち合わせスペースには無数のゲーム機が勢ぞろいしています。
ゲームを作るためだけに用意された空間。そこで彼らは「伝説の旅団」や「MUJO」、「OLYM」といった素晴らしいゲームを生み出してきました。
ゲームのルールから作る
Oink Gamesは総勢12名。起業のきっかけは、ボードゲームを製作するためでしたが、もともとメンバーの多くはデジタルゲームを制作していました。
彼らが初めて開発したモバイル向けパズルゲームの「MUJO」は同じ柄のタイルを3つそろえて、敵を攻撃して倒すというシンプルなルールに、独特の「スタック」というゲームルールを加えた新しいパズルゲームでした。
数字の書かれたタイルを重ねて、その数をかけ算的に増幅するという革新的な「スタック」のルールを、彼らはどうやって生み出したのでしょうか。デジタル部の部長、山本団さんは機能を足すのではなく、引いて作ったと言います。
「引き算の発想でゲームを作ります。普通は面白いゲーム要素をどんどん盛り込んで作るのが一般的だと思いますが、僕たちは削ぎ落として作ります。スタックの発想も今までのパズルゲームにはない新しい機能だけに絞る中で見つけました」
削り落として作る、アゴを伸ばす
引き算というコンセプトは、デザインにも踏襲されています。「MUJO」で使われた、幾何学模様を組み合わせて描かれたキャラクターのイラストも、装飾を削ぎ落とされた、普遍的なデザインという印象を受けます。
デザインへのこだわりを追求するのは、小さなゲームデベロッパだからこその強みを作る意図もあると代表の佐々木隼さんは言います。
「大きな会社とは開発にかけられる予算や人数の規模が違うので、その分、突き抜けたい、と思っています。例えばキャラクターの顔も、全体的にいい顔を目指すよりも、顎がいいなら、顎の良さを伸ばそう、もっと尖らせてみよう、と考えて作ります。面白さがむき出しなゲームを作りたいのです」
謎の蜃気楼現象
新しいゲームを作る旅の途中では、「蜃気楼現象」と彼らが呼ぶ状況が何度も訪れると佐々木さんは言います。
「面白いゲームのルールを見つけた、と思ったけど、やってみると全然面白くない、ということがあるんです。やってみないとわからないから、とりあえず全員であっちにオアシスがあるぞ、と向かうけれど、行くとただの蜃気楼だったということが何回も起こるのです」
行ってみて、蜃気楼だった時にはどうするのでしょうか。
「面白くないとわかったら、全部なしにします。『MUJO』の時も途中で、それまで作ったものを全部やめて考え直したんです。『スタック』というアイデアにたどり着いて、そこからは一気に2~3週間で完成させました」
積み上げたものをすべてなしにして、新しく作り始めるのは痛みを伴います。けれども、削ぎ落としたむき出しの面白さの原石にたどり着くまでは、捨てる勇気が必要なのです。
蜃気楼から生まれた奇跡
それでも砂漠には、確かにオアシスが存在していました。2作目の「伝説の旅団」の時は、蜃気楼の中でデザインのルールを見つけました。
「『伝説の旅団』の時も、蜃気楼に出会いました。その時は、時間も予算もない中で、ゲームのキャラクターや背景の色をモノトーンにすることで解決しました。すべてを塗らない、むしろ塗らないことを活かそう、と。結果、モノトーンの色彩は、光が失われた世界というゲームの世界観とも一致して、奇跡的にうまくはまったんです」
「面白いことをちゃんと考えて、試す。デジタルゲームは世界に向けていつでもゲームを出せるので、世界を視野に楽しい物作りをしたいと思っています。ゲームを作るのが目的の会社なので。お金を稼ぐのが目的ではないのです。そこが本末転倒にならないようにしたいといつも思っています」
ゲームを作るのが目的の会社。お金を稼ぐのが目的ではない。
本末転倒にならないように。
佐々木隼さん
次のオアシスを目指す
次のオアシスはもう決まっているのでしょうか。その問いに、いくつか動いている中で、「伝説の旅団」の世界を拡張する新しいアイデアも考え中だといいます。
新しい技術も自分たちなりに面白く使うことにこだわる彼らは、iMessageのスタンプ「Boopees」にも、スタンプ同士が相撲で勝負する、という面白い仕組みを加えました。進化し続ける彼らと技術との出会いが、次の新しいゲームを生み出すことでしょう。
少数精鋭で面白いゲームというオアシスを目指し、旅するクリエイティブ集団。道は不確かですが、実現できれば人々を豊かにする夢を、一緒に目指せることが彼らの強みなのでしょう。
伝説を作る”旅団”は次のオアシスを目指します。蜃気楼にまた向かっているかもしれない、と笑い合いながら。地平線の先に世界を見据えて。