舞台裏
多彩なブラシの大いなる可能性
Adobe Fresco: 絵画とデッサンのデザインアプリ
どこでもプロのイラストやリアルな水彩画や油絵を作成できます
AdobeのAppを使って絵を描いたことがあれば、Kyle Websterさんの名前を聞いたことがあるかもしれません。アメリカのノースカロライナ州を拠点にイラストレーターとして活動し、また、長年Adobeのアンバサダーを務めてきたWebsterさんは、これまで、インクや水彩のタッチ、万年筆のにじみから動物の毛皮まで、あらゆるものを本物そっくりに再現する、「Photoshop」のブラシを数えきれないほど作ってきました。 現在、AdobeのシニアデザインエバンジェリストでもあるWebsterさんは、Adobeの新たなイラストレーションApp「Fresco」にその力を注いでいます。創造的な制作活動に役立つ様々な機能を備えた「Fresco」は、まさにクリエイターのために作られたAppです。「最初にAppを開くと、画面の左上にブラシが並んでいるのが見えるはずです」と、Websterさんは言います。「それが語りかけてくるのです。ここで絵を描きなさい、と」
この分野の達人でもあるWebsterさんは、子供の頃からずっとコンピューターを使って絵を描いてきました。幼少時代は、Websterさんの父親が、時々職場からApple IIeを借りてきてくれたそうです。高校生になると「MacDraw」でスーパーヒーローのピクセルアートをスケッチし、大学では「考えつくあらゆる理由をつけて」、コンピュータ室で「Photoshop」で遊んでいたといいます。 スキルが上達してくると、Websterさんは自分で「Photoshop」のブラシを作り始めます。それは、より創造的な制作をしたいと願うクリエイターたちのニーズにきちんと応えようとする試みでした。「丸一日かけて、ちゃんと鉛筆のタッチに見える鉛筆のブラシを作ろうと試みました。飽きることはまったくありませんでしたね」と、Websterさんは言います。
私はとてもこだわりが強いんです。Adobeには、クリエイターたちが欲しがっているはずだと思うものを惜しみなく伝えています
Kyle Websterさん
やがてWebsterさんは、完璧に仕上げたブラシの一部を販売するようになりました。ビジネスは好調で、いつのまにか「Photoshop」のブラシというニッチな世界の頂点に立つ有名人になっていました。「どんどんすごいことになっていって、最終的にはAdobeが買い取ることで、『Adobe Creative Cloud』のライブラリにまとめられたんです」 そして2017年、Adobeは、Websterさん本人も会社に迎え入れました。 「その方が合理的だったんです。『Fresco』はブラシ中心のAppですから」と話すWebsterさんが現在いるのは、ノースカロライナ州の自宅オフィスです。堂々とした書棚には、だまし絵で知られるオランダの版画家、マウリッツ・コルネリス・エッシャーのハードカバーの画集や、数十年間、描きためてきたスケッチブック、20世紀初頭に描かれた「リトル・ニモ」のコミックストリップを集めた分厚い豪華本などがずらりと並んでいます。
「『Fresco』が生まれた経緯は『Lightroom』のケースに似ていると思います」と、Websterさんは言います。「『Lightroom』は、『Photoshop』は気に入っているけど、特殊な写真編集だけに特化したAppが欲しい、という写真家たちの声に応えるために作られました。『Fresco』は、イラストレーターたちによる描画機能のニーズに的を絞りました。特に最近では、昔のようにスタジオでしか作業ができないわけではありませんから」 自身の背景も踏まえて、Websterさんは、クリエイターたちの声を代弁しようと努めています。「私はとてもこだわりが強いんです」と、Websterさんは笑いながら語ります。「Adobeには、クリエイターたちが欲しがっているはずだと思うものを惜しみなく伝えています」 そうした要求に応えたものの一つが、幅広いツールセットです。「クリエイターとしての作風を決めるのは、ブラシやツールのその人独特の使い方を基礎とした、いわば視覚表現のボキャブラリーなんです」と、Websterさんは説明します。「『Fresco』なら、自分の作風を発見できます」
Websterさんによれば、「Fresco」で特筆すべき点は、Appの使いやすさや、ソーシャルネットワークの「Behance」でライブストリーミングする機能、そして驚くほどリアルな水彩と油彩の絵の具だといいます。絵の具の混じり具合があまりにも本物そっくりなので、触って指に色が付かないか、思わず試してみたくなるほどです。 中でも一番のお気に入りの機能は、写真を油彩ブラシで加工する機能だそうです。インポートした写真の色を絵の具のように混ぜて、まるで印象派の絵画のように変えられます。「癖になりますね。まるで瞑想するような感じです」と、Websterさんは言います。その言葉には、真のクリエイターによる重みが感じられます。