MEET THE DEVELOPER

デベロッパと振り返る2017年

第1回: MISTWALKER 坂口博信さん

App Storeでは12月29日から31日の3日間、2017年に活躍したデベロッパの皆さんとのインタビューをお届けします。

第1回は「ファイナルファンタジー」の生みの親としても知られ、現在は自身のスタジオ、MISTWALKERで「テラバトル」シリーズを手がける坂口博信さんです。

坂口さんの視点から2017年を振り返り、作り手としての思いや、今後の目標・抱負について伺いました。


坂口さんにとって、2017年はどんな年でしたか。一言でまとめると?

「暑い!」ですかね。

ハワイに生活の拠点を置きながら、一年の半分くらいは日本で過ごしています。今年の夏は「テラバトル2」のリリース前だったので、日本の開発チームにつきっきりでした。日本の夏はハワイとは違う暑さですね。開発もホットでした。

もう一つ、来年リリース予定の「テラウォーズ」の制作も同時に進めていたので、忙しい一年でしたね。

「テラバトル2」の開発で最も大変だったところはどこでしょうか?

実は2月に体調を崩してしまって、痛風になっちゃったんですよ。でも、それで動けなかったのがかえって良かったかもしれません。ずっと机に座っていたので、集中して仕事ができたかなと思います。

また今回はストーリーや世界観を濃く語りたいというところが出発点でした。大変ということではないですが、開発中も、リリース後の運営も、ストーリーの仕事に最もエネルギーを注いだ感じですね。


では開発で一番面白かったところは?

前作である程度アイデアを出し尽くして、やり切ったところはありました。「2」というのは、「そのうえでゼロから再構築したらどうなるのか?」というのが醍醐味ですね。新機軸を盛り込んで作れるというのは面白いところです。


リリース後のユーザーからの反応はどうでしたか?

今回はシナリオをより深く語るためにフィールドマップを採用したのですが、通勤通学の合間にやるには冗長だという厳しい意見もいただいています。

「テラバトル2」のフィールドマップ。ここでキャラクター同士の会話や、ストーリーの進展があることも。

同時に、そういった新しい要素が面白いという意見もいただいています。新しいことをやるときは賛否両論巻き起こりますが、思った以上に賛否両論だなと(笑)。

良くも悪くも、ネガティブな意見は多少無視してもいいのかなと思っています。新しい操作感や時間の使い方がモバイルのゲームであってもいいのではないでしょうか。シナリオやストーリーを中核に据えることは30年間やってきたので、そこを変えるつもりはありません。今後も、ゲームの世界への没入感より深めていく方向性を目指していきたいです。


長年「世界観作り」に携わってきた、坂口さんのインスピレーションとは?

一番わかりやすいのは、社会問題でしょうか。人間が完璧でない以上、社会には必ずほころびが出てくる。そこを題材に持ってくることでストーリーができてくると思います。

それをファンタジーやSFの架空の世界にしてしまうことで、キャラクターたちと楽しみながらその問題に触れられるのが面白いところです。

いま注目している社会問題はありますか?

いつの時代もそうですが、資本主義などのシステムを作っても、人間の欲望によって元々の思想がねじ曲げられ、結果的にダメになっていくその人間の欲みたいなところは面白いですよね。

システムを完全に自分のために利用する人物が悪役としては立ちますから、キャラクターも作りやすいです。もちろん彼らの行動にも原理があって、彼らなりの正義がある。タイトルの人気が出るのは、大抵悪役がきちんとできたときのような気がします。


一緒に作品や世界観を作り上げる、チームについてお聞かせください。

作曲家の植松伸夫さんとは30数年、一緒に仕事をしています。ツーカーの仲だからこそ、詳細を述べなくても、こちらの気持ちをくみ取ってくれますよね。

(キャラクターデザインの)藤坂公彦さんとも10年くらい一緒にやっています。僕が書いたプロットを元に、彼が膨らませて描いてくれるので、デザインを見てからキャラクターのセリフ回しなどを変えることもあります。

藤坂公彦さんによる原画。キャラクターの背面や小道具など、細部のデザインまで考えられているという。

自分でもたまに絵を描いてみますが、藤阪さんが描く線一本にしても、僕には真似ができない。チームというのはそれぞれ才能を持ち寄ることが大事だと思います。自分で素晴らしい音楽が書けて、絵も描けるなら一人でやりますけど、無理ですよね(笑)。

そしてなによりも、僕が彼らのファンなんです。自分の書いたストーリーに対して、大好きな作曲家の音がついて、大好きなイラストレーターの絵がそこに載るというのはうれしいですし、ワクワクしてきます。


では、坂口さんとチームの2018年の抱負は?

一つは、「テラバトル2」のストーリーですね。順次公開していますが、それをきっちり仕上げて、盛り上げていく。

もう一つは、すでに発表している「テラウォーズ」を2018年前半に出せると思います。クレイモデルを使った作品で、ちょうど仕上げている最中です。

あと「テラバトル2」が一段落ついたので、「1」を手がけたチームと「3」の構想もしています。ストーリーを考えたり、アイデアを出したりと、一番面白いところなので、そこを楽しみたいですね。

今後もゲームの世界への没入感より深めていく方向性を目指していきたいです。

MISTWALKER 坂口博信さん

最後に、ユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。

ものづくりのぬくもりを感じてもらいたい、という気持ちは常にありますね。一作一作、スタッフと一緒に魂を削って作っているようなところがあるので、そういうエネルギーが余韻として残ってくれるとうれしいです。

ゲーム業界で30年以上のキャリアを持つベテランでありながら、常に新しいチャレンジを続ける坂口さん。現在制作中の「テラウォーズ」や、構想段階だという「テラバトル3」など、今後の作品にも期待が高まります。

App Storeでは、明日もデベロッパへのインタビューをお届けします。どうぞお楽しみに。