MEET THE DEVELOPER

ドーナツと穴に隠された秘密

デベロッパのゲーム愛に満ちた制作秘話を読もう。

Donut County

穴になれ

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「Donut County」は、プレイヤーが地面の穴となり、すべてを飲み込んでいくゲームです。ネット上での冗談から始まり、ゲームジャム(ゲームクリエイターが集まって、短期間でゲームを制作するイベント)での試作品を経て、ついに完成したこの作品は、その開発に6年を要しています。

今回、その完成を記念して、デベロッパのBen Espositoさんにインタビューを行いました。Espositoさんの故郷ロサンゼルスがゲームでどのように表現されているか、また、真の友情の意味についてなど、興味深い制作秘話を明かしてくれました。

扇風機、フラミンゴ、くつろいでいるワニ。「Donut County」では、すべてが穴に飲み込まれます。

本作のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

最初はくだらない冗談から始まったんです。2012年の初め頃、Peter Molyneuxさん(「ポピュラス」で知られるイギリスの伝説的ゲームデザイナー)がTwitterのパロディアカウント、@PeterMolydeuxで、バカげたゲームのコンセプトをツイートしていて、その中に穴になってプレイするというアイデアがありました。その年の終わりに48時間のゲームジャムに参加した時、そのゴールが彼のアイデアのどれかを実現することだったので、このゲームの制作に取り組んだんです。

ご自身初のソロ・プロジェクトですが、以前はGiant Sparrowスタジオで「The Unfinished Swan」や「フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと」といった作品に携わっていますね。これらのゲームと「Donut County」に通じるテーマはありますか?

私が携わってきたゲームは、特定の感情やアイデア、システムなどの確固たる軸が最初にあって、そこから外側の世界が固まっていったものが多かったように思います。「Donut County」でも、地面の穴になることがナンセンスではない世界はどんな感じで、その世界は楽しいのだろうかと問いかけてみました。

そうした問いへの答えは「Donut County」の制作に役立ちましたか?

当初はストーリーやキャラクターが存在せず、ゲームというよりはオモチャのようでした。ところが、ゲームを見た人は例外なく、家を破壊して回ることを嫌がり、悲しみました。悪者になったように感じたんでしょう。

それですぐに気づきました。このゲームで最も重要なのは穴ではなく、穴に落ちてしまった場所や物なのだと。そこで、こうした一貫性のある世界や、そこで暮らしているキャラクターたちを築き上げなければいけないと思いました。そして、彼らが主人公と関わり合う理由も与えることにしたんです。

その答えがアライグマの主人公、BKでした。リモコンで穴を操作しているBKには、悪いことをしているという自覚がありません。念願のクアッドコプターを手に入れようと、地元のアライグマ会社のために人間たちが出すゴミを片づけ、お金を稼いでいるだけなんです。

ロサンゼルスのハンティントン・ライブラリーにある広大な庭園は、Espositoさんお気に入りの地元スポットです。

軽妙なトーンながら、友情や行動には結果が伴うなど、真面目なテーマにも触れていますね。

ええ、面白いでしょう。当初はゲームの終盤にプレイヤーが穴に落ち、そこで今まで飲み込んできたものすべてを目にするという、大どんでん返しが待っているはずでした。結局のところ、何一つ消えてなかったことを知るわけですが、そのパートは今、ゲームの序盤に移動しています。「どんなに悪いことをしたか」とプレイヤーを罰することを避けたかったからです。現在のバージョンでは、BKは穴に飲み込まれた人々の話を聞いていく中で、それがなぜ悪いことなのか理解していくようになりました。

親友のMira(ミラ)も、BKの成長に一役買っています。彼らの関係性については、我ながらよく描けたという自負があります。二人の考え方は正反対で、ミラはBKのやること全てに食ってかかります。それでも親友であり続け、ミラはBKの冗談に笑わずにはいられません。こうした二人の関係はとても深みがあって、共感を呼ぶのではないかと思います。実際、ゲームのキャラクター同士が互いを思いやる様子は愛おしいですね。

ケンカもするけど大親友というミラ(左)とBKの関係性は、Espositoさんが意図的に作り上げました。

なぜドーナツなんでしょう?穴があるから?

穴からドーナツを思いついたのは確かですが、実際にはもっとストーリーや設定に関連しています。ゲームの中の架空の街は私の故郷、ロサンゼルスがベースになっています。ロサンゼルスの街はどの地域もドーナツ店だらけで、どの店もコミュニティの中心になっていて独自のカラーを持っています。そういうわけで「Donut County」でも、ドーナツ店からすべてが広がっているんですよ。

本作の開発で特に学んだことは?

このプロジェクトに取りかかった当初は、ゲームもアートも音楽も制作経験があった私は自信に満ちていました。1年もあれば、相当ユニークで面白いゲームが作れるだろうと信じて疑いませんでした。ところが今、私はプロジェクトをやり遂げることの難しさを身に染みて感じています。当時よりもはるかに謙虚で、現実的な人間になったと思います。どんなゲームも、完成すること自体が奇跡なんだと理解しましたから。実際に一本の作品を作り上げ、すべてのプロセスを見届けてきたことで、どんなゲームにも大いに敬意を払うようになりましたね。

「Donut County」はマルチプラットフォームで楽しめますが、Mac版は何が特別なのでしょう?

ゲームの大部分はMacBookで作ったので、「Donut County」とMacの相性は抜群です。自分のMacを開いた時、App Storeで自分のゲームを目にするのは大変な名誉でしたね。

Macでゲームを作ってみて、何か嬉しい驚きはありましたか?

「Donut County」のグラフィックには、Metalのフレームワークを大いに活用しています。おかげでMacとiOSのどちらでも、何かを犠牲にすることなく、ゲームをまったく同じように見せられました。それと「Donut County」は、トラックパッドで遊ぶとすごく楽しいですね。開発中はもっぱらそうやってプレイしていました!