舞台裏

音楽を愛する人たちへ

100人以上の開発者によって生まれた本格的シンセサイザー、その誕生秘話。

AudioKit Synth One Synthesizer

新しい音楽の作成と再生

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App Storeには、優れたシンセサイザーAppが数多くリリースされています。その中の一つ、「AudioKit Synth One」は、300以上のサウンドプリセットを内蔵し、様々なフィルターやエフェクト機能を備えた高機能なシンセサイザーAppです。

その多彩な機能性に加えて、「AudioKit Synth One」の大きな特徴は、開発のためのソースコードが公開されていて、世界中のプログラマやサウンドデザイナーがボランティアで開発していることです。

世界規模のプロジェクトとして今も進化を続けている「AudioKit Synth One」ですが、その産声はとても小さいものだったと開発リーダーのMatthew Fecherさんは語ります。

「始まりは、とても些細なもので、徐々に大きく育ってきたプロジェクトなんです。2014年の秋、Appleが新しい開発言語であるSwiftをリリースしたときに、このプロジェクトは幕を開けました。Swiftは、iOS Appの開発を簡単にしました。私はSwiftを学び、Appleの新しい言語でiOSシンセサイザーを作ろうと決めたんです」

2014年の秋、AppleがSwiftをリリースしたときに、このプロジェクトは幕を開けました

Matthew Fecherさん

「私は間もなく、ゼロから大規模なシンセサイザーAppを開発するためには、多くの時間と忍耐、献身が必要であることに気づきました。幸いにも、このAppは『AudioKit』というオープンソースのプロジェクトを使って制作されています。私はAudioKitプロジェクトの主要な開発メンバーで、私たちは日々iOSの音楽Appを開発している人々をサポートするために無償のコードを書いています。

AudioKitのメンバーは皆ボランティアで参加していて、他の開発者やミュージシャンを支援し、得たものをプロジェクトへ還元することに余念がありません。そんな彼らとこのAppを開発できることは光栄です。スポンサーや投資家は存在しません。私たちは、音楽Appを作ることが大好きだから開発を続けています」

Matthewさんの胸中には、「一人のミュージシャンとして、他のミュージシャンをサポートするものを作りたい」という強い想いがありました。

開発中の「AudioKit Synth One」のインターフェイス。

「世界には、音楽Appに5~10ドルでさえ払えないiPadユーザーが何百万人といます。学校や慈善団体からiPadを無料で受け取っているユーザーもたくさんいますが、彼らの多くはクレジットカードを持っておらず、99セントのAppすら購入できないのです」

献身的なボランティアのおかげで、約2年にわたる開発期間を経て「AudioKit Synth One」はリリースされました。以来、Matthewさんの元には世界中のユーザーから喜びのメッセージが届いていると言います。

「世界中のミュージシャンから、素晴らしいメッセージが届いています。彼らの多くは、クレジットカードや十分なお金を持ちあわせていない人々です。特に心に残っているのは、オーストラリアの小学生から届いたメッセージです。彼は学校で疎外されていて、休み時間に『AudioKit Synth One』を演奏しているそうです。そうすることで、自分に自信が持てるようになり、疎外されていることを忘れさせてくれると言っていました。これ以上の何が望めるでしょう?」

今も世界中の開発者によって進化を続けている「AudioKit Synth One」。画面の文字を読み上げてくれるVoiceOver機能も利用できるようになりました。

「視覚が不自由な方にもシンセサイザーを使ってもらえるよう尽力してくれた、ボランティア開発者であるStanley Rosenbaumさんを心から誇りに思います」

「AudioKit Synth One」を手にした世界中のミュージシャンが、それぞれに創造力を羽ばたかせて音楽を奏でている姿を想像すると、胸が高鳴ります。ぜひ、あなたも多彩な演奏を楽しんでください。

「日本には、とても豊かですばらしいシンセサイザーの歴史があります。僕は日本製シンセサイザーの熱心なファンで、その技術から大きな影響を受けています。私たちのAppを日本のミュージシャンに使ってもらえることを、とても光栄に思います」