遠く離れた場所に住むあなたの家族は、いま何をしていますか? 青く濃い闇の彼方にかすかに鳥の鳴き声が響くと、うっすらと辺りがぼやけて、やがて朝焼けが空に満ちていきます。夜が明けて、古くなった農家の扉が開き、一人の老女が姿を現します。彼女の名前はタルマ。かつては家族や友達の声にあふれていた農場で、たった一人で暮らしています。 「The Stillness of the Wind」は、砂漠の中にぽつりと一軒だけある農家が舞台のゲームです。音と動きのある絵画のような、美しい世界観に驚くことでしょう。それだけでなく、このゲームの物語をたどるうちに、これが他のどのゲームとも違ったものであることに気づきます。人生の晩年に訪れる静かな時を疑似体験するような、深いテーマを持ったゲームなのです。
静けさに耳を澄ませると、朝を告げるいくつもの音に気づきます。風の音が、どこまでも変わらず続く砂漠の平穏を知らせます。ヤギやニワトリの鳴き声に、他の生き物がいる気配を感じて、慈しみと安堵を覚えるかもしれません。 タルマは家畜の世話をして、井戸の水をくみ、畑で野菜を育て、家畜のミルクでチーズを作ります。ヤギをなでて笑い、ミルクをかき混ぜながら鼻歌を歌います。少し離れた先祖の墓の近くまで、キノコを採りに行くこともあります。ですが、1日にいくつもの作業をこなすことはできません。せいぜい2つくらいをやり遂げたら、もう日が暮れてしまいます。 何かを攻略したり、拡大させたりするゲームではなく、何をするのも、どこへ行くのも自由なのです。その自由さはゲームという言葉の定義を問い、変えてしまったかのようです。 どこまでも続く砂漠を、ただひたすらに歩き続けることもできます。砂漠にあるのは、ただタルマ自身が歩いてつけてきた足跡だけ。彼女が選んだ道のりを大地に刻みつけたしるしです。そして吹き続ける風は、その軌跡さえも消してしまおうとします。それはまるで人生そのもののようにも感じられます。
一つ作り、一つ食べる。弟も妹も娘も孫も、それぞれの夢を追って街へ出ていきました。言葉を交わすのは、黒い崖を越えてやってくる行商の友人だけ。古くなったヤギの小屋を代わりに直してくれる人はいません。 時折、行商の友人は離れて暮らす身内からの手紙を届けてくれます。街の様子、希望、誕生、願望、過去、様々な思いがタルマのもとに届きます。そのすべてにタルマは沈黙で答えます。誰のことも引き止めず、先祖からの荒れた土地に留まり、生きるために暮らし続ける彼女の静寂は、されど雄弁に私たちに語りかけてきます。 耳を澄ませば聞こえてくる風の音が、絶えず変化し続けているように。