インスピレーション

信念のために戦う

eスポーツ史を塗り替えた、Xiaomeng Liさんの挑戦。

Hearthstone

Strategy Card Battle

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対戦型カードゲーム「ハースストーン (Hearthstone)」のプロプレイヤー、"VKLiooon"ことXiaomeng Liさんは2019年11月、「ハースストーン」の世界大会「グランドマスターズ」の決勝戦で7人のトッププレイヤーを打ち破り、eスポーツ界に新たな歴史を刻みました。畳みかけるようなハンターの攻撃を武器に、賞金20万ドルを獲得し、「ハースストーン」史上初の女性世界チャンピオンに輝いたのです。

紙吹雪が舞い、ファンの歓声が上がる中、優勝トロフィーを受け取ったLiさんは、手で顔を覆い、しばし無言で涙をこらえてから、温かい観衆に背中を押されてマイクを取りました。

「eスポーツに憧れ、大会での優勝を夢見ている、すべての女性プレイヤーに伝えたいことがあります。本気で望むなら、自分を信じてください。性別なんて無視して、一生懸命に挑戦してください」

Liさんは、最後の対戦者である"bloodyface”ことBrian Easonさんを、有無を言わせぬ戦法で打ち破りました。

あの歴史的優勝から数か月が経ち、Liさんは"eスポーツ界のアイコン"と見なされることにためらいを感じています。「自分が誰かの手本になれるとは思いません。私はただ、自分が大好きなことに、真剣に取り組んできただけなんです」

その一方でLiさんは、広義でのeスポーツコミュニティにおいて女性プレイヤーがどう見られているか、はっきりと自覚しています。「eスポーツの世界では、誰もが平等であるべきです。eスポーツが男性のためだけの競技ではないことに、もっと多くの人が気づくべき時が来ていると思います」

Liさんが「ハースストーン」をプレイし始めたのは、大学で法律と政治学を学んでいた時でした。卒業から1年後、彼女は「ハースストーン」のプロリーグに、すべての時間を捧げることを決断します。

eスポーツの世界では、誰もが平等であるべきです。eスポーツが男性のためだけの競技ではないことに、もっと多くの人が気づくべき時が来ていると思います

Xiaomeng Liさん

そんな彼女を、コミュニティは決して温かく迎えてはくれませんでした。デビュー間もない頃、あるライブトーナメント中に「女は引っ込んでろ!」と、ほかのプレイヤーから怒鳴られたと、Liさんは振り返ります。「ハースストーン」のランキングが上がっていくにつれ、事態はさらに悪化しました。「私ではない、別の誰か、おそらく男性がプレイしているんだろうと、大勢の人たちに言われました」

エンターテインメントソフトウェア協会によれば、米国のゲームプレイヤーの約半数は女性ですが、eスポーツのチームでプロの女性プレイヤーが占める割合は、4分の1以下にすぎません。

「あらゆるゲームをプレイする女性が増加していることには勇気づけられますが、それでもeスポーツの頂点で競っている女性プレイヤーは、ほんの一握りです」と話すのは、女性の権利を擁護する研究グループ、AnyKeyの共同創設者であるMorgan Romineさんです。同団体は、差別のないeスポーツコミュニティの育成に尽力しています。「eスポーツは女性のためのものじゃない、女性は勝てるわけがないと言われてしまうのです」

Liさんは優勝したことで20万ドルの賞金、仲間たちからの敬意、そして1つの素晴らしいトロフィーを獲得しました。

それでもLiさんのようなチャンピオンが誕生したことで、より多くの女性プレイヤーが、性別に基づいた偏見を乗り越えて、練習を積み重ね、競技に挑戦することへのインスピレーションを受けることでしょうと、オーストラリアのメルボルンにあるRMIT大学の、Playable Media Labの共同ディレクター、Emma Witkowskiさんは指摘します。

「Liさんは昨今のeスポーツ界で増えつつある、チャンピオンだと名乗れる女性たちの一人です」と、Witkowskiさんは言います。「彼女たちは、ゲームに勝利し、ゲームを一生の仕事にする道を、誰もが切り拓けるのだと、世に示してくれています」

また、Liさんは「与えられる機会はすべて活かして、現状を変えていきたいのです」と語ります。「女性は、この業界で無視される存在であってはいけません」