APPLE DESIGN AWARDS

成功の鍵はカードの中に

美しいデザインの中に人生の豊かさを描くパズルゲーム「Where Cards Fall」。

Where Cards Fall

変化についてのストーリー

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2020年のApple Design Awardに輝いた「Where Cards Fall」が、その産声を上げたのは、およそ10年前のことでした。

クリエイターのSam Rosenthalさんは、イギリスのロックバンド、レディオヘッドの「House of Cards」という曲に刺激を受け、南カリフォルニア大学の新入生寮の一室で、カードを活かしたパズルゲームを作り始めました。

「独特の比喩表現がとても美しかったのです」と、Rosenthalさんは語ります。「あの曲を聴くと、人生がとても儚いものに感じられました。曲が持つテーマを、ゲームという形で追求してみたいと思ったのです」

シンプルなゲームに見えますが、「Where Cards Fall」のパズルは、難解さを増していきます。

「Where Cards Fall」では、徐々に難しくなっていくパズルの中に、思わず心を動かされるストーリーが包み込まれています。プレイヤーは主人公を操作して、カードの家を建てながら、よじ登ったり、飛び越えたりしてステージを進んでいきます。そのすべては、主人公の記憶を象徴しています。より複雑になっていくステージをクリアしながら、主人公の人生におけるそれぞれの場面を再び構築していくのです。

「人生の経験をテーマにしたゲームをずっと作りたかったんです」と、Rosenthalさんは言います。「世界を救うことを目的としたゲームを作ろうとは思いませんでした」

開発初期のスケッチを見れば、カード遊びに着想を得たビジュアルが、10年間でどのように進化を遂げたかがわかります。

Rosenthalさんはまず、本物の紙を使って「Where Cards Fall」を作り始めました。「大学で学んだ考え方でした。まずは、自分が作りたいものに近いボードゲームを実際に作ってみました」と、Rosenthalさんは説明します。

卒業後、Rosenthalさんはフルタイムの仕事に就いたこともあり、作業はなかなか進みませんでした。それでも、Rosenthalさんの頭の中にはいつもこのゲームのことがありました。そして、空いている時間を見つけては、リードエンジニアのBrandon Sorgさんと一緒にゲームを少しずつ作り上げていったのです。「サンタモニカのコーヒーショップに、仕事をするように通っていました」と、Rosenthalさんは言います。「毎晩、夜の9時から11時まで作業をしていましたね」

Sam Rosenthalさん(左上)は、2015年にSnowmanと提携したのち、ゲームを最初から作り直しました。

どのパブリッシャーからも断られる中、Rosenthalさんが最後に出会ったのが、Ryan Cashさんでした。Cashさんは、「Alto’s Adventure」や、2018年のApple Design Award受賞作「アルトのオデッセイ」などの名作を生み出した、Snowmanの共同創設者です。

「ゲームにとって、見た目のデザインが重要だと考える方は多いと思います」と、Cashさんは語ります。「しかし、重要なのは実際にゲームをプレイした時の感じ方なのです。Samと私は、その部分で意見が一致しました。それで、彼という人間や、彼が手掛けるプロジェクトにも惹かれたのです」

Rosenthalさんは以前のバージョンをすべて解体し、アートディレクターのJoshua Harveyさんをチームに加えて、ビジュアルのスタイルを一新させました。「学生時代のプロジェクトの反省は活かされていますが、コードやアート、デザインに関してはすべて最初から作り直しています」と、Rosenthalさんは言います。

「Where Cards Fall」はパズルゲームである一方、心打たれる成長物語でもあります。

Rosenthalさんによれば、ゲームが進化していく中で、ストーリーとゲームプレイも互いに磨かれていったそうです。「一つの部分を作ったら、それ以外の部分の声を聞いてみる。そうやってテーマとシステムの対話を繰り返しながら、完成度を高めていきました」

そして「Where Cards Fall」は、単なる魅力的なパズルゲームを越えた作品として完成しました。それは日々の何気ない美しさに満ちた、成長の物語です。友達を作り、仕事に就き、人生を築き上げていく。それらはRosenthalさんがゲームを作りながら、実際に経験してきたことでもあります。そう考えると、本作はRosenthalさん自身の物語なのでしょうか。

「自伝的とまでは言いませんが、個人的な体験はたくさん盛り込まれています」と、Rosenthalさんは言います。そして、同時に普遍性にも満ちています。「このゲームの開発に関わった人はみんな、ストーリーの中に自分の一部を見つけられたと話してくれます。プレイヤーの皆さんにも、そうした共感を覚えてもらえたらうれしいですね」