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命を守るための情報を届ける

「特務機関NERV防災」に込められた防災情報をいち早く届ける想い。

特務機関NERV防災

最適な防災情報を国内最速レベルで配信

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災害が起きたときには、情報が届くのを待つのではなく、周囲の状況をよく見て自ら行動してください。この特記事項を踏まえたうえで、本アプリの情報を皆さんが有効に活用し、ひとりでも多くの命が守られることを願ってやみません

防災アプリ「特務機関NERV防災」を開くと、特記事項としてこのような文章が表示されます。ここに、このアプリを開発したゲヒルンの石森大貴さんの想いが込められています。

気象情報から防災情報まで、いち早く情報を届けてくれる「特務機関NERV防災」。

情報を活用し、行動することの大切さ

宮城県気仙沼市のリアス・アーク美術館に、「東日本大震災の記録と津波の災害史」と題された常設展示があります。2011年3月11日から約2年間にわたって、学芸員が独自に調査した、震災と津波に関する写真や記録を展示したものです。

展示には、資料とともに「東日本大震災を考えるためのキーワード」というパネル展示があります。被災地での生活から得た情報や、調査活動から見えた課題、被災地以外の人々との関係から見えた課題、メディアに対して抱いた違和感などを、単語と文章にまとめたもので、「防災活動に関わる上で、どれも示唆に富んでいる」と石森さんは言います。

中でも石森さんが衝撃を受けたのが「情報」について書かれたパネルでした。「あのような大規模災害が発生したなら、情報を待つ前に、想像力を働かせ、自ら行動しなければならない」。この言葉が、冒頭の特記事項をアプリに掲載する想いへとつながっています。

最初にアプリを開いた時に、いざという時の行動を促す「特記事項」が表示されます。

台風や地震などの災害発生時に、頼りになるのはその詳細な情報です。情報伝達手段が発達したことで、災害時でも、自分が行動を起こす際の参考になる情報を入手することは、比較的容易になっています。

しかし、「情報を得るだけでは十分ではありません」と石森さんは言います。

「情報は判断材料にはなりますが、それだけに依存してはいけません。通知が来るのを待っていてはいけないのです。情報を入手したら、自分で命を守る行動を起こすことが重要だと思っています。災害時には、計算通りにならないこと、予想していないことが起こり得ます。アプリをインストールしたら、そこで得られる情報を活用して、行動に役立てていただきたいという想いをユーザーの皆さんに伝えたかったのです」

個人の活動から事業へ

特務機関NERVという名称で、防災情報を広く届ける活動は、石森さん個人がX(当時はTwitter)上で趣味で始めたものでした。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する組織の名称を拝借し、最初は気象情報などを流していました。しかし東日本大震災が起き、状況が一変します。

宮城県石巻市出身の石森さんは、家族が地震と津波の被害に遭っていました。実家の家族と連絡が取れたのは、地震の発生から4日後のことだったといいます。

そんな状況ではありましたが、幾度となく発生する余震の緊急地震速報や震度情報を手動で発信したり、その後の計画停電に合わせて節電を呼びかけたりしていました。このとき発信された情報には多くの反響があり、特務機関NERVのアカウントが発する情報を、多くの人が求めるようになっていきます。

人々が情報を参照するようになるのと呼応するように、手伝いを申し出てくれるメンバーも増えました。そしてこの活動は、やがて自身が経営する会社の事業として取り組むに至ります。

精度の高い情報をアプリで届ける

今では気象庁本庁舎内の気象業務支援センターと専用回線で接続し、防災や災害に関する情報を取得して配信しています。その情報は、アプリにも即座に配信されています。

場合によってはマナーモードやおやすみモードでも鳴動する「重大な通知」によって、緊急地震速報や津波警報をいち早く届けます。アプリでは、位置情報に基づいた情報配信や、ユーザーの操作に応じた情報の表示ができるため、よりパーソナライズされた情報提供を目指しているといいます。

緊急地震速報や津波警報などは「重大な通知」として通知されます。

ゲヒルンが「特務機関NERV防災」アプリの開発にあたり特に力を入れたのが通知です。ユーザーがどういう状況でどのような情報を求めるかを細かく考え、通知を設計しています。

「夜中に震度1の地震が発生した時、寝ている人には音が出る通知は必要ないはずです。一方、同じ地震でも、起きていて揺れを感じた人は、その情報を知りたいかもしれません。ですから静かな通知を出します。そんな風に、通知の種類に応じて効果音と音声の組み合わせを変えています。特別警報や緊急地震速報などの場合は、注意を引く効果音に加えて音声でも案内が出ます。画面を見なくても通知の内容が分かるようにしているのです」

大雨・洪水警報の危険度分布に関するプッシュ型通知サービスも、気象庁の協力事業者として提供しています。

また、データを基に地図を作画するシステムを独自に作り、見やすく表示する仕組みも用意しました。東日本大震災の時の経験から、被災地などではテレビが見られないことも多く、そういった環境でも分かりやすく役立つ形で情報を届けられるようにしています。

ユーザーのプライバシーを保護するため、位置情報はサーバーには送らず、アプリ内で瞬時に地図を表示できるように設計したのも、注意を払った点です。

「ゲヒルンの本業は情報セキュリティの分野なので、デバイスの緯度経度の情報は外に出さないようにしています」

活動を支えるサポーターズクラブ

「特務機関NERV防災」の開発に関わるスタッフには、東日本大震災だけでなく、熊本地震など、様々な災害の経験を持つ人が多いといいます。だからこそ、いざという時に役に立てるよう、自分たちでできることは可能な限りすべてできるように準備をしています。

独自の地震計を開発して設置したり、全国にライブカメラを配置したりするのもそのためです。今後は自治体との連携も進めていきたい考えです。

こうした活動の一方で、ゲヒルンは「特務機関NERV防災」を無料のアプリとして提供しています。石森さんは「ユーザーがアプリをサポートできるようなサブスクリプションを活用していきたい」と話します。

「本当に災害の情報がほしい時に、ここから先はお金を払ってください、という形にしたり、広告を表示して、災害時に広告収入が増えたりするのは、自分たちのアプリのあり方として正しくないと感じました。ですので今提供している機能を有料にすることは考えていません。そこで、サブスクリプションの形でユーザーさんに応援していただける、サポーターズクラブ制度を用意しています」

サポーターズクラブに加入すると、登録地点の数を3か所から6か所に増やせます。また、次に実装する機能を一定期間先行して試せたり、ゲヒルンの防災活動に関する報告やアプリの開発の裏側を、読み物として見られたりするようになります。

「まだ実現したいことの半分くらいしかできていません」と笑う石森さん。正確な情報を、いち早く、分かりやすくユーザーに届けるためにできることを模索し、ゲヒルンは今もなお「特務機関NERV防災」の開発を続けています。

※インタビューは2020年7月に実施しました。