すべての女性を祝福

サメのゲームに込められた想い

共感し合う力が生み出した「Hungry Shark World」。

ハングリー シャーク ワールド(Hungry Shark)

ENDLESS HUNT, EAT TO SURVIVE

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Elizabeth Sampatさんは、食欲旺盛なサメを操作するアクションゲーム「Hungry Shark World」のクリエイティブ・ディレクターです。彼女は毎日、海辺にいる人々をゲームの中でどのように震え上がらせるのかを考えています。一見、奇想天外に思える本作を手がけるSampatさんには、強い想いがありました。

ユービーアイソフトの「Hungry Shark World」では、最強の捕食者となって広大な海を泳ぎ回り、目にしたものを一つ残らず食べていきます。魚の群れだけでなく、陸の上で逃げまどう人々も標的です。巨大なシュモクザメになって沈没船を探索したり、凶暴なメガロドンになって観光客を驚かせることもできます。あらゆる獲物を追いかけて高得点を目指しましょう。

Sampatさんが手掛けてきたのは「Hungry Shark World」のようなゲームだけではありません。2017年に発表した「Am I Part of the Problem?」は、プレイヤーの選択によって展開が変わり、プレイしながら謝り方を学べる、小説のような味わいのゲームでした。それ以来、彼女は人々が互いを理解し合うことの大切さを重視する開発者として、作品とともに評価され、同時にゲーム業界の男女平等も訴え続けてきました。そんな彼女がなぜ、サメのゲームを作ったのでしょうか。ロンドンの自宅から話を聞きました。

サメにも誕生日があります。ヘッドフォンやフラダンスのスカートで、お気に入りのサメを着飾りましょう。

「Hungry Shark World」にはどのような形で、互いを理解し合うというテーマを込めたのでしょうか。

人間の感情を扱った繊細な作風の私が、人食いザメになって暴れ回るゲームを作ったのは、確かに思い切った方向転換かもしれません。

しかし最強の捕食者として名をはせるサメが、人類が支配する生態系の中では弱者であるという現実は、興味深いと思います。このゲームのサメはある意味、海の守護者です。確かに人間を食べはしますが、海の中には海洋汚染など、人類による破壊の痕跡も見つかります。コンセプトはふざけているようでも、このゲームでは際限のない環境破壊に警鐘を鳴らしているのです。

私にとってゲームとは、共感しながら作っていくものです。

最初からそういう方向性だったのでしょうか。

常に心掛けているのは「思いがけず面白くなった道徳的なゲーム」ではなく、「楽しくて役に立つゲーム」を作ることです。この難しいバランスの実現に欠かせないのが、チームの「共感する力」です。例えば、私たちは国際海洋保護団体のオセアナに協力しています。また、ゲームを通じて地球を守ろうという業界の企業連合である、Playing for the Planetと提携したアップデートでは、北極の氷が溶けるとどうなるか、プレイヤーに知ってもらおうと考えました。

サメに個性を持たせるように、何か工夫していますか。

あらゆる方法で、サメの個性を作り上げています。ネズミザメのように愛らしいサメを好むプレイヤーもいれば、ホホジロザメのように巨大で格好いいサメを好むプレイヤーもいるでしょう。様々なタイプのサメが登場するので、共感できる一匹がすぐに見つかるはずです。

プレイヤーには、サメに恐怖ではなく、"安らぎ"を感じてほしいのだと感じました。

その通りです。このゲームをプレイする人たちに、深い共感を抱かないといけません。ゲームの場面や状況をデザインする時も、プレイヤーの気持ちに立って考えることが大切です。共感を得ようとするのではなく、相手に共感しながらゲームを作っていきます。それが私にとってのゲームデザインです。

独創的なアプローチですね。なぜ、このようなゲームを作るようになったのでしょうか。

私がこの世界へ入ったのは、偉大な女性ゲーム作家の影響です。最初はJulia Bond Ellingboe(「Steal Away Jordan」)やMeguey Baker(「Apocalypse World」)に触発され、テーブルトーク式のロールプレイングゲームを作っていました。最終的にはビデオゲームの道へ進みたくなり、「Wizardry 8」や「Jagged Alliance 2」で知られるBrenda Romeroに、ゲーム会社を紹介してもらいました。彼女は私にとって一番の恩師です。10年が経った今でも、困った時には相談しています。

創造性が発揮できる文化をスタジオ内に育むことも、Sampatさんの重要な役割です。

このような恩師からの紹介が、より多く業界に増えても良さそうですね。

ゲーム業界全体に占める女性の割合は約20パーセントで、平均して5年ほどで離職してしまいます。ですから女性の数を増やしたいなら、どのように離職率を改善し、平均値を6年、7年と延ばしていくかを考えないといけません。その一番の近道は、すでに業界で働いている女性たちを支援することでしょう。

具体的にはどのような支援が考えられますか。

力強い取り組みを行っている企業は、多くあります。駆け出しの女性クリエイターたちに門戸を開いたり、特別な雇用機会を設けたり、本当に素晴らしいことです。ただ、本気で大きく改善していくならば、今ある仕組みを徹底的に洗い直すことが必要でしょう。それが女性たちの支援につながります。

例えば指導者がちゃんとついていて、育成の道筋がはっきりと示されているのか、確かめないといけません。手本となる女性が要職に就いていることも重要です。そうした組織では、女性たちの活躍の場が広がっていきますから。

「Hungry Shark World」のサメは凶暴ですが、人間のように笑うので、プレイヤーは愛着が湧きます。

人とのつながりを育むことが大切ですね。

私にとっての指導とは、その人が成功できるように責任を持つことです。そのため、長期的な関係になることがほとんどです。

正しい指導者と引き合わせるだけでなく、教える側自身が、日々どのような課題に直面しているのか見せて、目で見て学んでもらうことも大切です。そのうち必ず、本人たちにも似たような問題が出てきますから。個人的にはリスクをはっきりと伝えながら、支援することを心掛けています。道をならしてあげることだけが、先人の役割ではありません。その途中にどのような罠や、危険が潜んでいるのか、示すこともまた重要です。

人を選ばず有益なアドバイスもあれば、その人に対して特別に有益になるアドバイスもあります。前者なら職場の誰に聞いても得られますが、後者は、その人のことを知っている人からしか得られません。だからこそ、指導者はかけがえのない存在なのです。相手の気持ちになって考えられますから。

共感する力を支えに「Hungry Shark World」を作っていく中で、サメの幸福や保護への意識は変わりましたか。

チームでサメの群れを保護しました。去年、スコットランドに数人のスタッフを送って、サメと一緒に泳いでもらいました。サメに発信機をつけ、サメの保護活動を体験してもらったのです。会社のお金で海辺の清掃も行っています。素晴らしいことだと思います。有言実行を守れる会社で働けることに、大きなやりがいを感じています。