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NieRの世界をモバイルゲームで

制作の中心人物に聞いた「NieR Re[in]carnation」の誕生秘話。

NieR Re[in]carnation

すべての祈りは、「檻」の中に。

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砂が落ちる廃墟のような建物。淡い色彩の中に無限の時が流れるような空間で、少女とその導き手であるママが先へ先へと進んでいきます。そこは「檻(ケージ)」と呼ばれる場所です。行き先に佇む黒いカカシの元で、いくつもの悲しみや絶望、そして希望を探す物語と出会います。

「NieR Re[in]carnation(ニーア リィンカーネーション)」はコンソールゲームの人気作品「NieR Replicant」や「NieR:Automata」といったNieRシリーズの最新作です。これまでのシリーズでも制作の中心メンバーであった株式会社スクウェア・エニックスの齊藤陽介さんとヨコオタロウさんがそれぞれプロデューサー、クリエイティブ・ディレクターを務め、株式会社アプリボットの松川大地さんがディレクターとして参加しています。

「NieR Re[in]carnation」がどのように誕生したのか、これまでのNieRの世界との関係性や、物語のエンディング、その先の展望について、齊藤さん、ヨコオさん、松川さんの3人に聞きました。

NieRのモバイルゲーム

そもそもこの企画は、いつぐらいから動き出していたのですか。

齊藤 :「前作の『NieR:Automata』というコンソールゲームを出した直後から、モバイルゲーム版も出したらどうか、という話が出ていました」

ヨコオ:「モバイルゲームの『SINoALICE ーシノアリスー』を出して好調だったこともあり、『NieR:Automata』のモバイル版を出したら売れるんじゃないかという機運が社内にありました(笑)。それで、作りましょうとなったのが事の始まりです。ですが、モバイルゲームが完成するまでには2年から3年がかかる。その頃には『NieR:Automata』なんか誰も覚えてないよ、新しい作品として作りましょう、と話して、今の形になりました」

株式会社アプリボットがモバイルゲームの開発を担当することが決まり、ディレクターに指名された時の感想はいかがでしたか。

松川:「まず、選ばれたのがうれしかったです。同時に、どうモバイルゲーム化していけばよいのか、不安でした」

ヨコオ:「上の人たちの圧が強くてね(笑)。怖いよね」

松川:「(苦笑)」

美しい檻の世界

「NieR Re[in]carnation」のシナリオをはじめ、音楽や演出など、ゲームの世界観やデザイン全般をヨコオさんが監修していると言います。そして松川さんがプログラマーやデザイナーのチームをまとめ、その世界観を具体的なゲームシステムとして形作っています。

本作の美しい檻の世界は、どのように生まれたのでしょうか。

ヨコオ:「新しいゲームにすることにしたので、『NieR:Automata』のSF的な世界観をそのまま使うのはやめました。本作の舞台である『檻』は石でできていて、延々と続いている、恐怖の雰囲気の漂う空間です。石を使うと中世的な、フラットな場所になります。逆に鉄はSFっぽい雰囲気が出るので、今回はあまり使っていません」

齊藤 :「『NieR:Automata』の都市は、白ベースの空間でした。今回の色調も、ヨコオさんが好きな色味を踏襲していて、そこは共通していると思います」

ヨコオ:「彩度が低い方が好きです。その意味でも、このゲームは、『NieR:Automata』の幻想をみんなで追いかけているような感じですね」

松川:「彩度を下げることで、もう一つ試みたことがあります。ゲームの中で、3Dで作られた世界と2Dで作られた世界の2つのパートがあるのですが、それぞれが明確に別の世界であってほしい一方で、2つの世界がデザイン的にバラバラで整合性がないのは嫌だったのです。3Dも2DもどちらもUI(ユーザーインターフェース)の彩度を落としたことで、全体のバランスを整えられたのではないかと思っています」

ヨコオ:「3Dパートは制作が大変で、多くは作れないのです。そこで、2Dの絵本みたいな表現方法の世界も登場させて、変化をつけていくのはどうか、と提案しました。1つのゲームの中に2つのゲームが入っているのと同じことになるので、その分制作の負荷もかかるのですが、松川さんが嫌々やってくれました(笑)」

無理も言い合えるチームと推察しますが、普段はどのように制作のやりとりをされているのでしょうか。

松川:「初期の頃は隔週でオンラインでの会議を設けて、打ち合わせしていました」

ヨコオ:「松川さんからこのシナリオはここが悪いとか、僕からも、いやここのデザインはここが悪いとかお互い言い合っています。仲が悪いって書いておいてください(笑)」

齊藤:「新型コロナウィルス感染症が広がる以前、食事会などをして集まれた時期にはスタッフみんなで食事をしていました」

受け継がれたNieRのDNA

制作にあたって、継承したものと、逆に変更・削除したもの。また制作にあたって外せない要素となったのはどういったところでしょうか。

ヨコオ:「3Dで表現される空間の中で流れるBGMなどは、丁寧に作っていこうと話していました。モバイルゲームで稀にありますが、メニュー画面を切り替えると、音楽が急に途切れて、ブツ切れに画面が切り替わるのは嫌だったのです。画面を遷移する際に、気持ちよくつながったり、ローディング中も音楽が聞こえたりするようにしてもらいました」

松川:「ゲームの中での表現とか、手触り感とか、細部までこだわっていて、いわゆるモバイルゲームの作り方とはかなり違う作り方をしていると思います。ヨコオさんたちと一緒に制作をする中で、僕も細かいことが気になるようになりました。僕はもう今までのような作り方には戻れないと思います」

この物語の結末

「NieR Re[in]carnation」の舞台である檻が存在する世界は、これまでのNieRシリーズの世界とはつながっているのでしょうか。

松川:「どういう位置付けになるかは僕には見えていませんが、こういう世界にしたいな、ああ、たぶんこういう世界なんだろうな、と思いながら作っています」

ヨコオ:「連結はしています。ただ僕はゲーム内の世界情勢自体にはあまり興味がなくて、それよりも登場人物たちの気持ちの大事なところをどう描いていくかだと思っています」

言葉と感情を失った少女として、プレイヤーは檻の中を歩み始めます。檻の中で、少女は何らかの救済を得るのでしょうか。

ヨコオ:「あの少女はいろいろなものを失っています。なぜあの子が檻の中を歩いているか、ゲームの中でどこかで一区切りがつくようにしてあります。エンディングから逆算して作っています。モバイルゲームは好評だといつまでも続いてしまい、エンディングにたどり着けないという呪いに以前かかったことがあるので、一旦、終わらせます」

齊藤 :「一旦、の終わりですね。ぜひたくさんの人に遊んでもらいたいと思っています。楽しんでもらって、その結果ビジネスとしても成功したら、海外の方たちにも遊んで頂きたいな、とは思いますが、そこは結果次第なので(笑)」

ヨコオ:「ぜひ松川さんに邪悪なシステムを考えてもらいたいですね」

松川:「僕が悪者になっている……(苦笑)」

齊藤・ヨコオ:「応援しています」