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プログラミングを学ぼう(小学校編)

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子どもたちの学ぶ力、生み出す力はいつも未来を創る原動力です。子どもたちは日々の暮らしや遊びの中でも、そしてもちろん学校の授業の中でも、いつも何かを学び取っています。子どもたちは新しいものと出会った時に、特にその無限の好奇心が開かれ、出会いの中に新しい発見と楽しみを見出します。

2020年から小学校でプログラミング学習が必修になりました。プログラミングは21世紀の今、読み書きや計算と並んで大事な基本的なスキルです。このプログラミングという新しいものを、子どもたちはどう学んでいるのでしょうか。小学校でプログラミング教育を行なっている榎本昇先生に、授業で実際にどのような教育を行なっているのか、また自宅などで子どもたちが自主的にプログラミングをもっと学びたい時におすすめのアプリを聞きました。

榎本先生が教える森村学園では、小学校の1年生から6年生までの全学年で、プログラミングを使った教育を行なっています。この学校では40年ぐらい前から総合学習があり、2020年度から正式に総合学習の中にプログラミング教育を組み込みました。榎本先生は、月に1、2回、担任の先生を含めて、児童たちにプログラミングの授業を行なっています。榎本先生は、テクノロジーを活用して教育現場の変革に努めるApple Distinguished Educatorの一人でもあります。

榎本先生:「特定の科目を教えているというよりは、社会や音楽の授業でもアプリケーションや時にロボットを使うなど、プログラミングと他の科目の内容とをコラボレーションさせる役割をしています。物事のマネージメントや、情報技術を使ったテクニカルなことを教える立場です。情報リテラシーを向上させる取り組みの研究を進めています」

低学年向けの教育

小学校では、読み書きや足し算引き算を習い始める1年生から、長文の作文や複雑な計算も学ぶ6年生まで幅広い年代の児童たちが学んでいます。そのため、プログラミングを教える際に使うアプリケーションも学年ごとに少しずつ変えていると言います。

榎本先生:「低学年向けには、文字を使っていない『viscui‪t』などを中心に教えています。自分の描いた絵が動いたり、簡単なお掃除ロボットの動きを作ったりして、子どもたちはプログラミングの授業をとても楽しんでいます」

「codeSpark Academy Kids Coding」も合わせて使っていると言います。 英語での記述の多いアプリですが、UI(ユーザーインターフェイス)がわかりやすく、子どもたちは夢中になって楽しんで学んでいると言います。

榎本先生:「『codeSpark Academy Kids Coding』の内容に沿って授業で教えています。このアプリの良いところは、子どもたちが必要のない無駄なコードを並べると、予期せぬことが起こるようにできているところです。必要なコードだけをスマートに並べられていると、その実行結果も順調に動くのですが、余計なコードが入っていると、無駄な動きが発生して、コードを修正しなければならなくなります。そこで子どもたちがまた工夫して、考えるきっかけが生まれるのです」

榎本先生:「子どもたちはすごく楽しそうに学んでくれていて、時に担任の先生からは、子どもたちが熱中しすぎてしまうから、アプリのキーとなるコードを渡さないでください、と言われることもあるくらいです(笑)」

プログラミングの学習を通して、子どもたちが学んでいるのは、実はコードやその並べ方だけに留まらないと榎本先生は言います。

榎本先生:「失敗してもやり直せば大丈夫、ということも感覚として身につけてくれているようです。プログラミングと同じで、失敗してもいいんだ、やり直して工夫するのが面白いんだ、ということを体験として早い時期に学べるのはとても良いことだなと思っています。例えば受験の経験などを通じて、失敗を怖がる気持ちを抱くことももちろんあります。しかし、プログラミングで試行錯誤しながら、自分なりに考えて、手を動かして、失敗を繰り返しながら成功へとたどり着く経験ができるので、失敗してもいいんだ、という実感が持てるきっかけにもなっています」

プログラミング教育は、何が答えになるのかを自分で見つけ出し、それを実現するために色々と試す、そのプロセスそのものを体験します。その自由な学びの中で、子どもたちは失敗自体が新しい発見という成果であることを、本質的に感じ取っているようです。

小学校低学年の児童向けの
プログラミング学習アプリ

中学年向けの教育

中学年の3、4年生では、「Springin’」を使って学習していると言います。より自由に作れる要素の多い「Springin’」は、子どもたちの想像力、そして創造力を多分に刺激するようです。

榎本先生:「『Springin’』には特定のキャラクターがいません。それも含めて自分で作るのですが、その自由さも子どもたちの心をつかんだようです。子どもたちは夢中になっています。コードや言葉を使わないのですが、どうやって操作すれば良いかがとてもわかりやすいのです」

ボタンを作ったり、描いたイラストとの関連性を作っていったりと、自由に指示をして、それがどう実行されるかを体験的に学習していきます。教室の中では、いつもと違う児童たちの学習の様子も見られたそうです。

榎本先生:「授業の中で、子どもたち同士で自然に教え合いをするようになりました。他の科目のテストでなかなか実力が出せない子が、プログラミングの学習では周りの子に教える役に回るなど、必ずしも他の教科の成績とプログラミングが得意かには相関関係はないようなのです。むしろ、プログラミングそのものに興味を持って、色々と自由に、失敗を恐れずに試してみるタイプの子が、ぐんぐん伸びていく印象があります」

教え合い、助け合う。多方向の相互的な学びが生まれていました。そしてプログラミングの学習は、他の教科の学びとも連携しています。

榎本先生:「社会科で防災学習をやるのですが、防災について説明するためのものをアプリケーションとして『Springin’』で作りました。また、3年生と1年生で交流会をやって、3年生が1年生にもわかるようなUIを作って、そのアプリケーションを1年生が解くといったこともありました。クイズ形式になっていて、こういう状況ならどっちを選ぶか?というのを選んでいくのです」

子どもたちはプログラミングを通じて、たくさんのことを発見して、学んでいきます。科目を超えた、大きな発見に気づいた子もいます。

榎本先生:「3年生の子の一人は、プログラミングの授業の感想文で、『失敗が楽しいことなんだとわかってきた』と書いていました」

あらかじめ決められた答えを知っているか、それにたどり着けるかだけではなく、自由にやりたいことや作りたいことを決めて、それが実現するまで工夫する。その過程そのものが、楽しいということに気づく。それは子どもたちが人生に必要な様々なことを学んでいく上で、大きな支えとなる勇気に繋がると榎本先生は言います。

小学校中学年の児童向けの
プログラミング学習アプリ

高学年向けの教育

高学年の5、6年生になると、「Sphero Edu」を使って、ロボットを動かす学習もしています。

榎本先生:「ロボットを動かすことで、現実世界にある重さや、歩く道にある凸凹などの不確定要素を児童たちに体験させたかったのです。またおみくじを作ってみたこともあります。乱数や変数など言葉自体は難しくなってきますが、児童たちは自発的に自分たちで教え合いながら、お互いに支え合って学んでいきます」

自発的に教え合うことで、教える側もより学びが深まるという効果もあるそうです。また、ロボットの動きという目に見える形でアウトプットが確認できることが、より児童たちの創意工夫を促すと言います。

榎本先生:「学びはインプットだけではないので、児童たちに、アウトプットをなるべく意識させたいと思っています。アウトプットをすることで、より深い学びが生まれていきます。また、先生より君たちの方ができることがある、と気づいてほしいですね。賢い子ほど、先生が言ってほしいことを読み取りがちですが、プログラミングに関してはそういうことが一切ないのです。

必ずしも先生が教えるだけとは限りません。実際、クラス担任の先生方も一緒に授業に参加して何かを作る時には、児童たちが先生に教えている姿をよく見ます。授業の外でも、5年生の女子児童たちがプログラミング学習で使う教室の床の色をもっと自由に、発想が広がるようなパステルカラーにした方がいいと提案してくれました。良いアイデアが思いついたら、先生に提案してみる、そういう自発的な行動をしてもいいんだ、という感覚をプログラミングの授業で感じてくれたのかもしれません」

プログラミングは結果に多様性があり、自分の色がつけられる、そこに他の教科とはまた違った学びの魅力があると榎本先生は言います。

榎本先生:「子どもたちは、本当に楽しそうにプログラミングをやっていて、家でやってもいいの?と聞いてくる子もいます。おうちの人と相談してできる範囲でやってみたら、と話しています」

小学校高学年の児童向けの
プログラミング学習アプリ

※このインタビューは2021年2月に実施しました。