MEET THE DEVELOPER

らくがきに命を宿らせ人々に笑顔をもたらす

「らくがきAR」の誕生秘話。

らくがきAR

自分の描いたらくがきが動き出す!?

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自分が描いたらくがきの絵が、起き上がって歩き出す。そんな夢のあるAppが、2020年の夏に脚光を浴びました。

「らくがきAR」は、iPhoneやiPadのカメラを通して紙に書かれた絵を認識し、AR(拡張現実)の技術を活用して、切り抜かれた絵を生き物のように動かしてくれます。分かりやすい面白さが多くの人たちに愛され、自宅で過ごす時間が多くなっていた世界中の人々に、笑顔をもたらしたのです。

「らくがきAR」を開発したのは、世界各地に拠点を構え、「Make whatever. Rules, whatever.(何でも作る。やり方は問わない)」を社是とするクリエイティブ集団のワットエバー社です。同社のクリエイティブディレクター、宗佳広さんと、エンジニアの岡田隆志さんが中心となって生み出されました。

「らくがきAR」を生んだワットエバーの岡田隆志さん(上)と宗佳広さん(下)。

“らくがき”を面白おかしく動かす

どんならくがきを描いても、「らくがきAR」で認識させれば、まるで生きているかのように動き出すのに驚かされます。その、遊ぶ人が心地よく感じる動きの裏には、長年開発してきた独自の技術がありました。

「詳しいことは秘密なのですが、HoneBorn(ホネボーン)と呼んでいる技術を活用しています。見た目で分かる部分で言うと、形状として突出しているところを認識していて、見る人が面白いと感じられるように動きます。きれいに描かれた絵ではなくても、“それっぽく”動かせるのが特徴です」(岡田さん)

この技術は、宗さんや岡田さんがWhateverに合流する前、ココノヱという会社で活動していた時から使っていたものでした。イベント会場向けのコンテンツ作りなどを手がけていたココノヱでは、来場者が紙に書いた絵を認識して取り込み、会場の画面に表示させ、踊ったり闘ったりして描いた人や来場者に楽しんでもらう、エンターテインメントコンテンツを2010年頃から作っていたのです。

会場で来場者が思い思いに描いた絵は、取り込んで、いざ動かすとなった時、自然な動きにならないものもありました。

「イベントでは、本当にいろいろな絵を描いていただきました。エンジニア泣かせな、複雑な絵を描いてくれる人もいたりして。うまく動かないものがあると、来場者さん、特に子どもたちはがっかりしてしまうので、どんな絵でも動かせるように対応していったんです。動いている様子を見た人がどういう反応をするかなども参考にしながら、らくがきの動きをブラッシュアップしていきました」(岡田さん)

こうして進化してきた技術が、自分で描いた絵に命が吹き込まれるような「らくがきAR」の体験につながっているのです。

技術を、簡単に使えるように

けれども、「らくがきAR」がここまで支持されるとは、当初は思っていなかったと宗さんは話します。

ココノヱ時代から開発してきたらくがきを動かす技術を、iOSのARKitと組み合わせると面白いことができるのではないか、そんな思い付きから2017年頃に生まれたのが、「らくがきAR」のプロトタイプでした。この時点で、すでに現在のAppに近い操作性は出来上がっていたそうです。

宗さんは「『らくがきAR』に限らず、体験までの時間をあまりかけないとか、常にわかりやすくとか、ハードルを下げたコンテンツ作りは重要視しています」と話します。岡田さんも当時を振り返り、「遊ぶ人がタッチする数を極力減らすようにしました。文字で説明を書いても読んでいただけないことが多い、というのも経験上分かっていたので、説明がなくても使えるようにしていました」と笑います。

そんな「らくがきAR」のプロトタイプが、2019年に応募した、第7回デジタルえほんアワードでグランプリを受賞しました。

「ここでようやく、世の中に需要があるんだな、と思ったのです。10年以上開発に取り組んできた自分たちは、もう慣れてしまっていて、すごく面白いものだとは思っていなかったんですね」(宗さん)

それでもまだ、他の仕事の傍ら「らくがきAR」に時間を割いて、App Storeで配信する、というところまではいきませんでした。そうした状況が、2020年に急変します。

「新型コロナウイルス感染症が拡大して、自由に外出するのが難しくなった時期に、家の中で遊べるものがあったらいいのでは、という声が社内で上がり、『らくがきAR』をAppに仕上げてリリースすることになったのです。こういう環境になっていなければ、リリースしていなかったかもしれません」(宗さん)

世界中の人々を笑顔に

こうしてようやく世に出た「らくがきAR」は、その単純な楽しさと、命を吹き込まれたらくがきたちの動きの面白さなどから、瞬く間に話題になりました。

「難しい説明が必要ないものだったため、海外でも広くダウンロードしていただいています。リリースから時間が経っていますが、いまだに多くの方に楽しんでいただいていて、ありがたいです」(宗さん)

ソーシャルネットワークでは、自分が描いた絵を「らくがきAR」で動かす映像を共有している人も見かけます。宗さんは「自分ならではの使い方などをしている方がいらしたら、ぜひ共有してほしいですね」と笑顔を見せます。

岡田さんは、「コミュニケーションツールとして『らくがきAR』を使って、会話が増えたり、発想の種になったりしてくれたらいいなと思います」と期待を寄せます。そしてこのように話してくれました。「実は『らくがきAR』をAppとして完成させることは、これまでのらくがきを動かす技術の集大成であり、これを出したら開発が終わるような気がしていたんです。でも、多くの方にダウンロードしていただいて、反響もたくさんいただいて、これからも“らくがきコンテンツ”を作り続けてもいいんだよ、って言っていただけたように感じられて、とてもうれしかったです」

「らくがきAR」のApp自体は、今後新機能を追加したりする予定はないそうです。ですが、宗さんから「対戦ゲームやダンスゲームなど、アイデアはいろいろあるので、基本の技術の部分は活かしつつ、新しいAppも作っていきたいと思っています」という言葉をいただきました。「カメラの前にあるものの距離をより正確に測れる、LiDARセンサーのような技術も出てきましたし、また面白いものが作りたいですね」と宗さんは話します。

世界をあっと驚かせ、人々に笑顔をもたらした「らくがきAR」。それは、開発者の身近にあった技術を磨き上げて生まれたものだったのです。