アフリカに暮らす10歳のスーパーヒーロー、セマは、空を飛んだり、変身したり、壁を通り抜けたりはできません。その代わりに、天才的な発想力と技術力を組み合わせたテクノベート(「技術力を用いて革新を起こす」の意)の力で、世界を救います。
「Super Sema」は2021年からYouTube Originalsで配信されている、アフリカ初のスーパーヒーローが活躍するアニメシリーズです。「単なる“ヒーローもの”ではありません」と語るのは、本シリーズを手掛けたKukua社の最高執行責任者(COO)、Vanessa Fordさんです。「『Super Sema』は黒人女性とアフリカの文化をたたえるアニメ作品です。私たちは、力強く、情熱に満ちたアフリカの未来像を描きたいと心から思ったのです」
セマが暮らすドゥニアという架空の村は、不運にも悪のAIロボットの拠点となっています。セマの活躍を支えるのは、科学です。シーズン1では、ごみの分解熱を利用して発電したり、生物模倣(バイオミミクリー)の知識を用いて環境汚染を防いだりしました。
「Super Sema」では、アフリカに固有の文化も多く描かれます。セマはパン・アフリカ主義を象徴する赤、黄、緑、黒が入った服をよく身に着け、セマと双子であるパソコンに詳しい男の子と、マサイ族の伝統布、シュカをまとった祖父に助けを借ります。アフリカの屋台で見かける揚げパン、マンダジも頻繁に登場します。
「Super Sema」は女性主導のチームによってナイロビで制作され、メンバーの大半はアフリカ人です。作品は配信が始まると同時に話題となり、現在までの視聴回数は1,400万回を超えています。2022年1月にはNAACPイメージ・アワードにもノミネートされました。
多くのスーパーヒーローと同じく、セマの誕生秘話も波乱に富んでいます。セマの生みの親であるLucrezia Bisignaniさんはローマ出身ですが、子どもの頃にアフリカ各地を旅して回りました。「両親は、私たちがこの地球という大家族の一員であることを伝えたかったのでしょう」と、Bisignaniさんは言います。「そんな環境で育った私は、自分とは違ったものを受け入れ、多様性を愛する心を持つようになりました」
アフリカの低い識字率を改善するという夢を叶えるため、Bisignaniさんは読み書きや簡単な算数をゲームで学べる教育Appを開発します。セマはそのゲームのキャラクターでした。特徴的なおだんご頭は今と同じですが、当時はまだ無敵のヒーローではありません。英雄の登場にはドリームチームの力が必要でした。
初めにBisignaniさんのチームに参加したのは、ケニアで10年以上暮らし、英国アカデミー賞にも輝いた作家でプロデューサーのClaudia Lloydさんです。次いで、ロンドンのWeinstein Company社の幹部で、長編映画のプロデュースを手掛けていたFordさんが名乗りを上げます。さらに、黒人女性として初めて長編アニメ映画(『ムーラン』)を監督したLynne Southerlandさんが、シーズン1の監督としてチームに加わりました。
「『Super Sema』は1つのエピソードが5分しかないため、映像やストーリーの魅力を保ちながら簡略化する方法を見つけるのに苦労します。物語を動かし続けながら、キャラクターたちの細かい感情も伝えないといけません」と解説してくれたのは、Southerlandさんです。「セマがとても魅力的なキャラクターだったのは、幸いでしたね」
「Super Sema」は黒人女性とアフリカの文化をたたえるアニメ作品です
「Super Sema」エグゼクティブプロデューサー兼Kukua社のCOO、Vanessa Fordさん。
ハリウッドの人脈を生かし、Fordさんはケニア育ちのオスカー女優、Lupita Nyong’oさんを紹介してもらいました。「電話をかける前は、せめてTwitterで何かつぶやいてくれるか、あわよくば宣伝も手伝ってもらえたら、くらいに思っていました」と、Fordさんは明かします。「いざ話し始めてみると、あっという間に『私も参加したい』という流れになっていました」
Nyong’oさんは最初の数エピソードでセマの声を担当し、現在は製作総指揮を務めています。
「彼女からは多くの刺激を受けました。実に心強いアドバイザーです」と、Fordさんは言います。「番組を良くするための助言を惜しまない、彼女の協力があるからこそ、私たちの体験をスムーズに、アフリカでの出来事に置き換えられるのです」
「『Super Sema』のもう一つの鍵は、各エピソードの科学的な要素をどう表現するかです。楽しくて夢がありながら、あくまでも現実に即していなければなりません」と、Fordさんは言います。たとえば、セマが作った“ピザプリンター”については、NASAが似たようなフードプリンターの開発に資金援助を行っています。別の話ではセマがドローンを作って、悪役のトボーが城を建てるために伐採した森を復活させます。
「アマゾンでは森林再生の取り組みに、ドローンが実際に使われています」と、Fordさんは言います。「現実味のあるテクノロジーを取り上げ、それらを想像力豊かに楽しく描くことを心掛けています」
シーズン2の制作が進んでいますが、「Super Sema」の物語は始まったばかりです。YouTubeでは、自宅でできる科学の実験を子どもたちに紹介する「Sema’s Lab」というサブチャンネルを配信しています。さらにKukua社は最近、エンターテインメント業界の大手とも取引のある、子ども向け玩具の制作会社、Just Playとの提携を発表しました。「Super Sema」のシーズン1は現在、英語とスワヒリ語で配信されていますが、今後はスペイン語、ロシア語、インドネシア語などの字幕にも対応していく予定です。
こうして世界へと広がり、子どもたちの心をつかむパワーこそが、セマの魅力かもしれません。「子どもたちがセマを見て、自分でもすごいことができると思ってくれたら、それは素晴らしいことです」と、Fordさんは言います。「セマが立派なお手本となって、子どもたちにひらめきを与えているのです」