舞台裏

切なさの力を信じて

ヘブンバーンズレッド

最上の、切なさを。

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セラフと呼ばれる決戦兵器を手に、外宇宙から来た謎の生命体キャンサーとの戦いへと身を捧げる少女たち。今やキャンサーは人類を絶滅寸前まで追い詰め、地球の陸地の大半を支配しています。あなたは「ヘブンバーンズレッド」で、人類の最後の希望を背負った少女たちと運命を共にして、未来を切り開けるでしょうか。

全力で、最上の切なさを書き連ねたいです

麻枝 准さん

「へブンバーンズレッド」の原案とメインシナリオなどを手掛けるのは、2000年代に「AIR」や「CLANNAD」といったゲームを手がけたクリエイターとして知られる、麻枝 准(まえだ じゅん)さんです。「ヘブンバーンズレッド」は麻枝さんにとって15年ぶりの完全新作ゲームです。配信開始からこれまで、作品に込めてきた想いや工夫を語ってもらいました。

主人公は、少女たち自身

「ヘブンバーンズレッド」の物語は、かつて伝説的ロックバンドのボーカリストだった少女、茅森月歌(かやもり るか)がセラフ部隊に入隊する日から始まります。

集められているのは、茅森と同じようにセラフを扱える素質と、様々な個性を兼ね備えた少女たち。そして、茅森は「第31A部隊」として共に戦う5人の仲間と出会います。人類が直面する運命と、彼女たちそれぞれの生きる理由が交錯しながら紡がれるシナリオが、本作の大きな魅力です。

茅森たちを物語の主人公にすることは、ストーリーを書き始める上でも非常に重要だったと麻枝さんは言います。

「数々のゲームにおいて、プレイヤー=主人公であり、感情移入の妨げとなるために姿が描かれないことが多いんです。『ヘブバン』でもプロローグを、たくさんの兵士を指揮する無個性な指揮官を主人公として書き始めたのですが、まったく筆が走りませんでした。そこで、いっそ指揮される側のキャラクターを主人公に据えてみたらどうだろう?と思いついて、ようやく筆が走り始めました。それが、入隊式の茅森です」

麻枝さんの描くシナリオは、少女たちを時に過酷な運命へと導いていきますが、その醍醐味は世界観や展開だけに留まりません。茅森と、彼女を取り巻く仲間たちとの日常会話は、常に軽快なボケとツッコミの連発で進みます。過去に麻枝さんが手がけた作品でも見られた独特の文体とユーモアが、「ヘブンバーンズレッド」でも少女たちの存在感を際立たせています。

「シナリオでは、どこを切ってもキャラクターが生きていることを目指しました。(過去に手がけた)ノベルゲームとは違って、ロールプレイングゲームではいろんなところでちょっとしたセリフや掛け合いが発生するのですが、基地内で出会うキャラクターたちの細かなセリフ、フィールドやバトルでのカットイン、戦闘中のボイス、すべてを自分で執筆、監修しました」

物語を疾走させる、音楽

「ヘブンバーンズレッド」では、茅森月歌が第31A部隊の仲間と、かつて自分がギター&ボーカルを務めたロックバンド「She is Legend」を新生させます。そこで演奏される楽曲はもちろん、他にも物語の中で重要な場面に音楽が鮮やかに挿入されているのも、作品の大きな魅力です。麻枝さんは、こうした楽曲の制作やプロデュースも手掛けてきました。

「スマートフォンのゲームでも、音を出してプレイしてもらえるように、とにかくBPM(曲のテンポ)を上げました。曲を制作する中で、アレンジとボーカルが吹き込まれたことにより、化けたと思うのは『White Spell』『きみの横顔』『Particle Effect』の3曲です」

例えばゲームのオープニングで使用されている「White Spell」では、白い冬の訪れと、愛しい誰かとの別れの予感が重なって表現され、ここから始まる冒険の先に待つものへの想像をかき立てられます。楽曲と物語の相乗効果が生まれるような、こうした瞬間が「へブンバーンズレッド」の中にいくつも散りばめられています。

「切なさ」を描き続ける理由

物語が進むと共に、茅森やセラフ部隊の少女たちを取り巻く運命は、やがて過酷さを増していきます。しかし、たとえ絶望的な未来が待ち受けていても、彼女たちはそれぞれに前へ進もうとします。その大きな理由は、仲間と共にある、今この瞬間のはかなさや尊さに、それぞれが向き合おうとするからです。

麻枝さんの描くストーリーでは、こうした局面が現れるたびに、プレイヤーの胸中に切なさがかき立てられ、登場人物への共感や愛おしさが増していきます。それこそが、麻枝さんが意図してきたことだと言います。

「自分はプレイヤーの皆さんの心にいつまでも残り続けてほしくて、作品を作っています。それには、心に大きな穴を空けるような切なさが重要なのだと、20年以上前に尊敬するシナリオライターに教わり、今もそれをこつこつと続けています」

そして、2022年2月の配信開始以来、リアルタイムで「ヘブンバーンズレッド」の物語を執筆できていることも、麻枝さんにとって新たな経験をもたらしています。

「買い切りのゲームでは、ユーザーの反応を見てから新規でシナリオを執筆することはできません。そういう意味で、今回はユーザーの反応に対してリアルタイムでシナリオを執筆できるので、よりニーズに応えられるものを生み出せている感覚でいます。また、今回はセリフを書くと同時にキャストさんのお芝居が頭に浮かぶので、当て書きの感覚で書けるのも、筆が走り続ける要因です」

最後に、麻枝さんに「へブンバーンズレッド」の今後について聞いたところ、その意気込みはこのような言葉でした。

「ひとつの節目となるラストシーンを描き切る、それだけです。そこからもお話は続くのですが、ひとまずはそこまで全力で、最上の切なさを書き連ねたいです」

果たして、渾身の力で描かれる切なさの向こう側で、あなたと少女たちを待つものは何なのでしょうか。ぜひ、その目で確かめてみてください。

※インタビューは2022年6月に実施されたものです。