舞台裏

ヴィランズが輝く魔法世界

ディズニー ツイステッドワンダーランド

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魔法を使う人間たちや、様々な異形のものたちが共存する、ねじれてゆがんだ世界「ツイステッドワンダーランド」。魔法の鏡に導かれてこの異世界に迷い込んだあなたは、元の世界に帰る方法を求めますが、どうやら簡単ではなさそうです。

たどり着いた先に待っていたのは、「ナイトレイブンカレッジ」という名門の魔法士養成学校と、問題ばかりを巻き起こす生徒たち。「グレート・セブン」と呼ばれる先人たちの伝説にまつわる7つの寮を持つ学園で、あなたは次々に騒動へと巻き込まれていきます。

ディズニー作品の
悪役(ヴィランズ)を原点に

本作の大きな魅力は、校内の7つの寮や魔法士の卵たちが、ディズニーのアニメーション作品に登場する悪役たち(ヴィランズ)や、その世界観を元に描かれていることです。

「ナイトレイブンカレッジ」校内の7つの寮のイメージ元として数多くの作品から選ばれているのは、「ふしぎの国のアリス」「ライオン・キング」「リトル・マーメイド」「アラジン」「白雪姫」「ヘラクレス」「眠れる森の美女」の7作品。主人公の前に立ちはだかった手ごわい悪役たちの顔が、すぐに目に浮かぶ人もいるかもしれません。

例えば「ふしぎの国のアリス」の世界観を元に創作された「ハーツラビュル寮」の寮長リドル・ローズハートは、規則を厳格に守ることにこだわり、ルールを破った者には罰を与えます。その個性は「ふしぎの国のアリス」に登場するハートの女王のイメージを彷彿とさせ、リドルの周りの寮生たちの個性もまた、女王を取り巻くトランプ兵たちとイメージが重なります。

原案やキャラクターを
生んだ、枢やなの情熱

こうした「ディズニー ツイステッドワンダーランド」の世界観やキャラクターの着想はどこから生まれたのでしょうか。その鍵を握り、クリエイティブな要素を丹念に作り上げてきたのが、マンガ家としても知られる枢やな(とぼそ やな)さんです。

制約が大好きで、ハードルがある中で最高を目指すのが楽しいんです

原案・メインシナリオ・キャラクターデザイン 枢やなさん


「今も続けている『黒執事』というマンガの連載があるので、このオファーをもらう前までは、長期的なお仕事の提案はお断りしていたんです。でも、企画を聞いて、ディズニーの作品やキャラクターが好きだったので、一も二もなく『やります!』と答えました。マンガの担当編集からも、企画を見る前に『君はきっと受けるよ』と海外ドラマみたいなセリフを言われて、本当にその通りになりました。

しかも、その段階ではヴィランズ(悪役たち)をテーマにしたゲームというお題以外、具体的に何を作るかは決まっておらず、(企画・制作元の)アニプレックスさんと一緒に企画を練り始めました。最初はディズニーといえばハリウッドだね、という発想から若手俳優キャラクターがディズニー作品を演劇として公演するゲームの企画を提案して、ボツになったこともありました。ディズニーさんには、世界中の老若男女に通じる作品を成立させるための数々のルールがあるため、この俳優育成ゲーム企画以外にも何案もボツになりました。その後、海外でも日本ならではのゲームジャンルとして認知されてきている学園もの、という切り口にたどりついたんです」

ゲームの構想が現在のものに近づくまで、約6か月の時間をかけて、枢さんは企画を出し続けたといいます。アイデアを説明するために、ストーリーを組み立てたり、ゲームの要素を想像して絵に描いたりする中で「ディズニー ツイステッドワンダーランド」の世界観が形作られていきました。

「マンガでも、編集長にOKをもらうまではアイデアを何度も出して、担当編集と二人三脚でブラッシュアップするのですが、そうした経験が生きたと思います。個人的には制約が大好きで、ゲーム制作上のハードルや決めごとがある中で、最高を目指すのが楽しいんです。開発前のゲームなので、想像上のリズムゲームやUI(ユーザー・インターフェース)、バトルシーンなどを全部絵で表現して、毎週のようにコミュニケーションしました。『ツイステ』をリリースまで漕ぎ着けられたのは、想像がつきづらく言語化が難しい部分を絵の力で突破できたのが大きいと思います」

悪役たち(ヴィランズ)に
託したメッセージ

本作のメインストーリーで、あなたは7つの寮それぞれと関わり、個性あふれる生徒たちと知り合っていきます。その過程では、彼らが持つ様々な一面が描かれ、時には、憎まれ口ばかり叩くような生徒たちが密かに抱える弱さや悩みが明るみになることがあります。そうした物語と人物造形の奥行きも、枢さんが腐心したところです。

「ストーリーとキャラクターの創作は、ほぼ同時に進行しました。ストーリー自体は、ディズニー作品に登場するヴィランズの運命へのオマージュですが、そこにキャラクターを載せる時に、キャラクターだけ先にあっても、ストーリーだけ先にあってもダメなんです。ストーリー完結までのプロットを先にディズニーさんに共有しつつ、本線プロットだけ先行すると直線的で面白味がない筋になりがちなので、キャラクターメイクやサブエピソードも同時に構築して提出しました。それを細かくチェックしていただいて、戻ってきたものを直して、という作業を繰り返して、シナリオ執筆を本格的にスタートできるまでに1年近くかかりました。

また、ディズニー作品はどれも普遍的な物語になっているので、ヴィランズの手下はちょっとコミカルで親分に頭が上がらなくて……みたいに似ていることが多く、それらを元にした複数のキャラクターに個性を出すのに苦労しました。例えば『ふしぎの国のアリス』のトランプ兵をモチーフにした生徒4名や、『白雪姫』の毒リンゴ自体をモチーフにした生徒のキャラクターを創作する際がそうです。具体的にはトランプ兵の立場に自分を置いてみたり、リンゴの気持ちになってみたり、それを書きだして積み重ねていったんです。リンゴは毒リンゴになりたかったわけではないのに、籠にあった果物の中で最も美味しそうな見た目だったばかりに、女王に強制的に選ばれてしまい不本意だ。そう思ったのではないだろうか?とか。

そうして、各キャラクターの個性を練っているうちに、配信開始の前には、それぞれの分厚い設定資料ができ上がっていたんです。ボイスキャストのみなさんには、収録時にセリフが一つ二つしかない段階からそれを読み込んでもらったので、その情報の多さに驚かれることもありました」

悪役たち(ヴィランズ)が、枢さんの描く物語で自分の弱さやいびつさと向き合う中で、いったい何が生まれるのでしょうか。そこには、ユーザーに感じてほしい前向きなメッセージが込められています。

「正しい行いや愛によるハッピーエンドがディズニー作品の原点にはありますが、ヴィランズは物語の中で救われていない人たちだと私は思っています。だからこそ、やっつけられてバッドエンドを迎えたとしても、それを糧にして、へこたれずに生きていこうよ、というメッセージをゲームの中から発信しているつもりです。

かっこ悪いこと、懲りないこと、反省しないこと、開き直ることって、言うほど悪いことでもない。他人を気にしない、自分に正直に生きる、それをポジティブに描いていきたいと思っています。現代社会を生きる人たちは失敗を恐れたり、すごく気を遣ったりして生きている感じがしますけど、欠点がない人なんか存在しません。誰からも嫌われないように生きていこうとか、疲れてしまいますよね」

衣装で織りなす
オリジナルの文化

「ディズニー ツイステッドワンダーランド」の中で、特に心血が注がれている要素の一つが、キャラクターの衣装デザインです。7つの寮それぞれに、イメージの源となる映像作品の世界を服飾として解釈しながら、まったくオリジナルな衣装を創る難しさを、枢さんはこう表現します。

「デザインは、元の作品世界からインスパイアを受けている寮服から取り掛かりました。国や文化、時代も異なる設定が、一つの学園内で並列に存在しているので、現代的でありつつ、それぞれの世界観を背負っている感じを目指したんです。また、文化の盗用や既存のファッションブランドの真似にならないようにチェックを重ねていて、実は、ゲーム内で採用されたものの3倍近い数の衣装案を描いています。

例えば『白雪姫』のポムフィオーレ寮の寮服では、要素を盛れば盛るほど、クラシカルなアニメーションの印象とイメージがかけ離れてしまい、苦労しましたが、結果的に要素だけで考えるのではなく、シルエットから再構築することに。日本人が思うクラシカル=着物の要素をあえて取り入れることで、逆に『白雪姫』のシンプルだけど豪華な印象を感じるデザインに行き着きました。

また『眠れる森の美女』のディアソムニア寮の寮服では、マレフィセントが、黒い甲冑を身に付けた手下グーンを擁している関係性をデザインに落とし込みたかった。なので、素材をレザーにしてクラシカルさとハードさを両立。さらにデザイン当時、ハイファッション界でトレンドだったハーネス(身体用ベルト)などを取り入れています。

現代のリアルなハイファッションを意識しつつも、イベント衣装などでは『ツイステ』独自の文化を表現することを大切にしています。例えば、以前開催した『豊作村のケルッカロト』や『夕焼けの草原のタマーシュナ・ムイナ』のイベント衣装では、既存の民族衣装の再解釈ではなく、現地の日照時間や気候などから考えられる服飾史の設定から着手しました。

雪が深く日照時間の短い土地だから、屋内で過ごす時間が多くなって刺しゅう文化が発展しているはずだとか、暑い土地では通気性の良い綿や麻のような素材を染色しているだろうから、色味はこんなふうになるだろうとか。そんなふうに『ツイステッドワンダーランド』の世界における、織物の歴史や文化を構想したうえでデザインしているんです。

他のイベント衣装でも、2年近く時間をかけて、チェックと修正を繰り返しているものもあります。衣装は召喚でお金を使って引いてもらうことも多いので、おしゃれな百貨店で実際に買ったと思えるくらいのクオリティじゃないとダメだと思っているんです。また、(私の事務所の)D-6thのスタッフに洋裁とパターンの専門資格保持者がいるので、バックスタイルや着脱方法までデザインされた、実際に着られるデザインにもなっています。でも、せっかく魔法がある世界なのでリアリティだけでなく、ファンタジックで夢のあるデザインも大切にしています。『このパーツは縫い付けている設定だと不格好だから、魔法でくっついてることにしちゃおう』なんてこともありますよ」

壮大に展開する
ツイステの物語

2020年に配信を開始してから、主人公であるあなたが迷い込んだ「ツイステッドワンダーランド」の世界は、枢さんが執筆するメインストーリーと共に、壮大な展開を見せています。創作と開発の現場から生まれるその熱量を、枢さんはこう語ります。

「マンガしか描いたことのなかった自分と、女性層をメインターゲットにしたゲームの制作経験が豊富ではないアニプレックス、それから現場で開発と運営を手がけるf4samuraiが初めて挑んだジャンルの作品で、ある程度の成功をした。この理由の一つは3社の距離が近いことだと思います。毎回の打ち合わせも楽しいですし。ゲーム制作から逆算したわけではない、私の思い付きに驚かずに柔軟に付き合ってくれて、ずっと一緒にトライ&エラーをやっている感じです。

1章では3万5,000字だったストーリーが、6章では25万字を超えるボリュームになりました。3章くらいまでは、まだユーザーさんにもキャラクターへの思い入れが少ないはずなので、まず『ツイステ』の世界観を理解していただくことを第一に、コンパクトに作ることを心がけていたんです。でも、実際にリリースしてみたら、遊ぶ人が思ったよりも物語を読み込んでくれる実感もありました。だから、準備期間の想定よりも、今はより濃密な情報量で執筆するようになりました。この先は物語の縦軸・横軸だけでなく、現在・過去・未来といった要素の広がりも組み込まれて、かなり大きなスケールになっていきます。

物語を書いていて思うのは、自分を曲げない前提で相互理解を深めたり、柔軟な考えを持つようになったりしたら、きっとヴィランはめちゃくちゃ強い。自分とは違う相手の考え方や、長所や短所を理解することで強くなっていくのがこのゲームの基盤なんです。それは、このゲームを作っている私たちのスタンスにも似ているのかもしれません。自分でも『ツイステ』の開発に携わってからタフになったと思います。マンガ家の私が初めて挑んだゲーム制作。チームメンバーが初顔合わせだったり、ゲーム業界の文化に慣れていなかったり、日本独自のエンターテインメントとしてではなく、グローバル作品目線での厳しい審査があったりと、自分の特技がNGとなる場面が多く、最初は驚きました。結果的に、一つの方法がダメでも、衝突するのではなく、方法を変えて挑戦できるようになりました。

ストーリーの中でも、彼らはヴィランズなので、負けを認めたりはしないんですけど、『お前、やるじゃん』と認め合ったりはする。お互い嫌いあっていても、それはそれとして実力を認め合うことはできるんですよね。私たちは、これからもへこたれないヴィランズ精神を大事にゲームを作っていくし、ユーザーさんには、そこを今後も楽しんでほしいと思っています」

※インタビューは、2023年1月に行われました。