インディーズ スポットライト

やさしい終末世界の舞台裏

ゲーム開発なら場所を選ばず仕事をすることができます。病室にMacBook Airを持ち込んで、子どもの看病をしながら開発しました

合同会社ズィーマ 代表 じぃーまさん

App Storeでは、個人で、あるいは少人数で、ゲームやアプリを開発する数々のインディーズデベロッパが活躍しています。

終末世界を舞台にしたユニークな作風のゲームを多数リリースしているじぃーまさんも、そのようなデベロッパの一人です。2013年に初めて自作のゲームをApp Storeで公開して以来、ずっと1人で個性的なゲームを開発し続けるじぃーまさんに、その制作の舞台裏を聞きました。

やむを得ず趣味から仕事へ

じぃーまさんのゲーム開発は、かつてトミー(現在のタカラトミー)が販売していた「データバトル」というゲームの体験が原点にあるといいます。あまりにも好きだった、ロボットを組み替えて育成するゲーム。これを、なんとかまた遊べるようにできないかと考え、以前から興味を持っていたスマートフォン向けのゲームとして開発することを思い立ちました。

ゲーム開発やプログラミングの経験はなかったものの、趣味として独学で開発を始め、数か月をかけて2013年に最初のゲーム「ロボラン」をApp Storeで公開したそうです。残念ながらゲームエンジンのサポートが終わってしまい、この作品は現在は公開されていませんが、それ以来、ゲームを作り続けています。

趣味で始めたゲーム開発をなりわいとしたのには、理由がありました。ある時、小さなお子さんが病気の治療のため1年間入院することになり、家族がつきっきりで看病する必要が生じたのです。雑貨屋を経営していたじぃーまさんは、看病のためお店をたたむことになりました。なかなか仕事ができない状況で途方に暮れていたところ、当時公開したばかりのゲーム「TimeMachine」がヒットし、ゲームから収入を得ることができました。

「ゲーム開発なら場所を選ばず仕事をすることができます。これしかないと思いました。その後、病室にMacBook Airを持ち込んで、子どもの看病をしながら『DropPoint』を開発しました」

お子さんは退院し、現在は寛解していますが、その後も新作を出し続けて今に至ります。

「私は個人ゲーム開発者を目指していたわけではなく、人生の流れで個人ゲーム開発者になりました。ちょっと珍しいような気がします」

そんなじぃーまさんが手がけるゲームは、人と人とのつながりを描く、終末世界を舞台にした作品です。多くの作品に共通するのが、相反する難しい2つの選択肢から、どちらかを選ばなくてはならない状況です。そこには、じぃーまさんの「ゲームは現実の人生と違って気軽にやり直せるので、人生ではそう何度もできないようなクリティカルな選択を体験してほしいからです」という思いが込められています。

仕事に徹するか、他の幸せを見いだすか

記憶を失ったロボットとして、門番をすることになる「フラットマシン」は、キャリアと転職がテーマのゲームです。最初は勝手もよくわからない状態で、やってくる不審者と戦ったり、取引をしたり、集落の中の人とコミュニケーションを取ったりしながら、門番としての日々を過ごします。

しかし門番の仕事を続けていくと、自身の選択の結果、地位を得たり、弟子を育てたり、家族ができたり、旅に出たりすることになるのです。本作にじぃーまさんは「意外と人は自由に生き方を選べる、ただ、どれも一生懸命やらないといけないし、一生懸命やればどれを選んでもそこそこハッピーだよね、というメッセージ」を込めたといいます。

料理で皆を幸せに

レストランにやってくる不思議な客たちに、料理を作って振る舞う「カタストロフィレストラン」。あなたが切る、たたく、煮る、焼く、といった調理をして提供する料理が、様々なつながりを生んでいきます。謎の食材、不気味な料理、そして個性的な来客や看板娘のクーノに用意されたストーリー。この作品は、あまり悩むことなく楽しめます。

「おいしいごはんのためにいつの間にか集まった人たちがなんとなく仲良くなり、それぞれみんな救われたり誰かを救ったり前向きになったりして、またみんなでご飯を食べてワハハ、という作品です。ただそういう素敵な場所って、裏でがんばって維持してくれてる人がいるんですよね。それがシェフであるプレイヤーです。みんなの居場所はあなたが作れるんだよ!という話です」

2人で手をつなげば無敵

2体のロボットが荒野を歩いて行く「スクラップフレンズ」は、初恋をテーマにした作品だといいます。手をつないだ2体のロボットは、ゴミを拾い続けながら、時にドローンを撃墜し、処刑人を撃退し、それでも歩き続けます。ゲームが進むにつれ、少しずつ取り戻される記憶。そこに描かれているものにあなたは何を見いだすでしょうか。

じぃーまさんによると「すべてがうまくいってる生活の中で、でも好きなあの子と手をつないで歩くためならぜんぶ壊しちゃうこともあるよね、もう生活はめちゃくちゃだけど、手をつないでる瞬間だけは幸せだよね、という作品」なのだそうです。「バッドエンドになるべきなのですが、バッドエンドが嫌いなのでハッピーエンドになり、メッセージがマイルドになりました」とその秘密を明かしてくれました。

生きるか、命をささげるか

ある日目を覚ますと、かわいらしい生物が腕に生えている「パラサイトデイズ」。でもその生物は、あなたの命を吸い尽くす寄生虫だったのです。かわいらしい寄生虫に自分の命を捧げるのか、それとも生きるために寄生虫を駆除するのか。生き残りの道を探すのがゲームの目的ではありますが、あなたの選択で様々なエンディングが楽しめます。

「共存不可能な相手を愛せるか」をテーマに作られた本作では、「100%自分の害になる存在でも、互いに協力し、理解しあえば仲良くなれるかもしれないじゃん?というメッセージを込めました」とじぃーまさん。でも、多くのプレイヤーは、作者の意図に反して寄生虫に命をささげたくなるようです。「寄生虫ちゃんと自分の命を天秤にかけて悩んでほしかったのですが、あまりうまくいったとは言えません。寄生虫ちゃんのデザインや会話を可愛くしすぎたため、遊んでくださる方たちの多くが喜んで自分の命を差し出すという結果になったからです。かわいいは正義でした」

広がり続ける、やさしい終末世界

「今後も『やさしい終末世界』を豊かにしていきたいと思っています」とじぃーまさんは話します。優しい終末世界とは、じぃーまさんが創り続ける、ゲームを緩やかにつなぐ世界観です。過去作のキャラクターがゲストとして登場したり、「野生の電子レンジ」のような、オリジナルの終末生態系が共通して登場したりするこの舞台は、「初めて自分のゲームをプレイする人でもすぐに世界観を理解してもらえるように」と、あえて共通する部分が用意されているのです。この終末世界では、「人間同士のつながりがシンプルにクッキリ描けると思っています」とじぃーまさんは話します。

また、常に遊ぶ人を二律背反の状況で悩ませるのに加えて、作品作りで大切にしていることがあるとじぃーまさんはいいます。

一つは、「遊んで楽しい」ものであること。メッセージが込められてはいるものの、「メッセージ性よりもプレイした時の楽しさの方が圧倒的に大事」だとじぃーまさん。「メッセージはほんのり香る程度でいいと思います」

もう一つは、「がんばったら報われる」エンディングが用意されていることです。「パラサイトデイズ」や「MyLove.」など、完全なハッピーエンドにはなり得ない設定で始まる作品もありますが、「バッドエンドが嫌いなので、一生懸命やるとちゃぶ台がひっくり返ってみんな幸せになる!というエンディングをトゥルーエンドとして必ず用意しています」というのです。

じぃーまさんの様々な作品に漂うやさしさは、こうしたこだわりから生まれているのかもしれません。App Storeにあるじぃーまさんの数々の作品を、ぜひ楽しんでください。

じぃーまさんが手がけた作品