3月は女性史月間

ギターと共に道を探して

クラシックギタリスト村治佳織さんが語る、自分らしい夢の描き方。
クラシック業界でも変化を感じることが増えました。これからはもっと、女性作曲家とも一緒に何かに取り組みたいです

村治佳織さん

クラシックギタリストとして幼少期から数々のコンクールで優勝するなど才能を発揮。15歳でCDデビューを果たしてから現在まで、日本はもちろん世界を舞台に活躍を続ける村治佳織さん。そのギターから紡ぎ出される、時に鮮烈で力強く、時に繊細で柔らかなメロディや音色は、30年に及ぶキャリアを通じて聴き手の心を魅了してきました。

ギターで奏でる音楽の中に自分らしさを追い求めながら、音楽の長い歴史からバトンを受け取って次の世代へと手渡す、一人の運び手でもあること。そんな2つの役割を、自然体で体現してきたように見える村治さんが抱いてきた想いや、活用しているアプリとは。次世代へのメッセージと共に語ってもらいました。

女性として、音楽の
歴史の一部として

ギタリストとしてクラシック音楽の様々な楽曲と向き合うなかで「私自身、男性の作曲家からのインスピレーションを数多く得てきました」と言う村治さん。そして、そうした感謝と同時に、ある事実にも思い当たったそうです。その気づきは、自分の立場から、今後を少しでも変えていくことへの決意にもつながったといいます。

「大人になってからですけど、ある時、気づいたんです。今まで弾いてきた曲って実は、ほぼ男性が作った曲だなあって。あれ?実はすごく偏ってるんじゃないかな?と思って、びっくりしました。クラシック音楽の世界のみならず、どんなに豊かな才能を持つ女性がいたとしても、社会には出にくい時代がずっと続いてきたわけですよね。それは作曲家だけでなく、演奏家だって、多分そうだったはずなんです。

これからは女性作曲家とも、何かをもっと一緒に取り組もうかなって。自分から仕事を依頼できる立場を任せていただける場合は、男性と女性の比率がなるべく偏らないように仕事をしていきたいと思っています。クラシック業界でも、そういう意味で変化を感じることは多くて、私がデビューした頃から女性の演奏家は活躍していたんですが、裏方のスタッフさんにも女性がすごく増えました。表舞台を支える立場でも、女性が活躍できる場が増えてきたと思います」

女性同士の連帯や、助け合いについて話が及んだ時、村治さんが口にしたのは「女性同士で力を合わせることのパワーを、一番最初に感じたのは母からです」という言葉でした。幼少期から音楽活動に打ち込んできた村治さんは、母親の支えから特別な学びを得てきたそうです。

「母は音楽とは関係のない、人に教える仕事をずっとやっていて、自分より他人のために生きるような人です。私は母から、常に感謝が大事だよっていうことを言われ続けてきた気がします。母は私たち子どもを育てるために仕事を頑張って続けていました。コンサートは客席で聴いてくれていましたが、いわゆるステージママではなく、私のリハーサルなどの仕事現場を見学してもらったのも、私がデビューして10年以上たってからのことでした。母が働く後ろ姿はいつも見ていたので、母との関係性の中から、強さを感じてきました。

母と良い関係を築けていれば、友達とも良い信頼関係を生めると思うし、力を合わせることの一番の基本を学べるのは家族だなと私は思います。私の場合は、一生の糧となるギターとの出会いを得たのも家族からだったので、よりそういうふうに思うのかもしれないですね」

演奏や創作を
支えるアプリ

「元々はアナログなものが好きで、紙の楽譜をめくる時の質感やインクの匂いも好きなんです」と言う村治さんですが、現在では演奏活動や創作の場面に、様々なアプリも役立てて活用しているといいます。

「他のアーティストの方と共演する機会がある時に、楽譜でメロディやコードを確認する際に使うのが『playo(プレイオー)』というアプリです。『ぷりんと楽譜』という、色々な楽譜をサブスクリプションで見られるサービスがあって、それをiPhoneやiPadで表示できるんです。同じ曲でも、ピアノやギター、弾き語りといった様々なアレンジの楽譜があるので、どれが自分に合うかを探しながら選んでいます。実際にステージに立つときは、譜面をまったく見ないで弾ける状態まで練習してから弾くのが楽しいのですが、そのために準備段階で色々な楽譜を見ておくようにしています。

「playo(プレイオー)」では、様々な楽譜が見やすく表示されます。

こういうサービスがなかった頃は耳でコピーして五線譜にメロディを書いたり、楽譜屋さんに買いに行って探したりしていたので、それをデバイスだけで完結できるのはありがたいですね。

「チューナー & メトロノーム」は、チューナー、レコーダー、メトロノームの三役一体で使えます。

外出先で練習の時にうっかりメトロノームを忘れた時には『チューナー & メトロノーム』がすごく助かります。ジャズの曲とか、複雑なリズムで書かれた曲を演奏するときは、練習中もメトロノームを使って、曲のテンポ感を自分の中に入れていくんです」

演奏や創作の現場で活用するアプリに加えて、村治さんとクラシック音楽の関わり方を変えたのが「Apple Music Classical」です。現在は「Apple Music Classical」のアーティストアンバサダーとしても活躍する村治さんですが、リスナーとしても音楽家としても、これまでになかった魅力があるといいます。

「作曲者や時代、楽器や指揮者など検索の幅が広くて探しやすいので、聴き手としても楽しめています。年代が中世、バロックから現代までわかりやすく分類されていて、最近は演奏する機会が少ないですが、かつてレコーディングした、16世紀のルネサンス音楽も聴いています。これまでは検索に時間がかかっていたのが、昔の作曲家もずらりとアイコンで出てくるので、改めて勉強しやすくなったと思いました。

私のチームでは、いつも同じミキサーさんやエンジニアさんに作業をお願いしているんですが、今、私のアルバムをほぼ全部、空間オーディオで楽しめるように作業してくださっています。それを機に改めて自分の楽曲を聴くと、録った時の情景を思い出しますね。特にバッハの曲を弾いたアルバム(『村治佳織 プレイズ・バッハ』)は、バッハが生きたドイツのライプツィヒで録音させてもらったので、それだけで嬉しかったんです。クラシックの楽曲の場合は、自分なりの表現を入れる前に、まず作曲家の方の想いを調べたり想像したりして、そこに自分らしさが加わっていくのかなと思います。

何百年も前に書かれた楽曲を今の自分が弾いて、お客様が感動してくださると、それだけですごいことだと感じます。音楽によって、目に見えない世界や時空がつながって、過去と今と未来とを行き来できるって、なんて素晴らしいんだろうって。そういうことに関わっていられる自分の職業や生き方に、すごく感謝しています」

これからの夢と
続く世代への想い

30年に及ぶギタリストとしての経験を胸に、今の村治さんの目線の先には何が映っているのでしょうか。また、下の世代の女性に伝えたいメッセージはどのようなものでしょうか。そんな問いかけに、村治さんは率直な言葉でこう答えます。

「自分のことで言うと、長く活動されているアーティストに憧れがあって、例えばスペインのピアニストでアリシア・デ・ラローチャという方がいらっしゃったんです。幼い頃から80歳になるまで現役で活動されて、身体が小さい方でしたけど、ピアノを弾くと音楽のスケールが大きくて。私はその方の80歳の時のコンサートを観る機会があって、衰えは感じさせない演奏で完璧に思えたんですが、やっぱりご本人としては大変な思いをされているのかもしれないと思いました。

私も、おばあちゃんになってもギターを弾いていたいと最初から思っているので、とにかく長く続けたいですね。宇宙や地球の歴史から見れば自分の人生は短いものですよね。ですが、音楽と人類の歴史はずっと続いていくので、その一部になれていることに感謝しつつ、未来の人にもこの音が届くといいなと願ってレコーディングやライブコンサートを続けていこうと思っています。

もし、下の世代に言えることがあるとしたら……私から影響を受けてもらえるのは嬉しいけれども、最終的に自分の人生は自分で作る、誰のものでもない、自分だからこそできる表現だという意識を持っていってほしいと思います。私も誰かと同じようにはなれないから、誰かのようにではなくて、自分のいいところはなんだろうって、意識し続けます。あなたにしかできないことを探していってほしい。後にも先にも道はなくて、あなたが作っていくものだと思っています」

村治佳織さんが活用しているアプリ

Apple Music Classicalで村治佳織さんのプレイリストを聴く

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