アクセシビリティについて考える

誰もが楽しめるパズルゲームを

「Unpacking」のゲームクリエイターWren Brierさんが取り組む、誰もが楽しめるゲーム開発の秘密。

Unpacking

人生と引っ越しの物語

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多くの人が人生で一度は経験する“引越し”。App Store Awardに輝いた「Unpacking」は、ストレスの多いこの節目のイベントを、心を癒やすパズルゲームに作り変えました。本作のクリエイターたちは、このゲームをできるだけ多くのプレイヤーに届けたいとアクセシビリティ機能の充実に注力しました。

「ゲームで遊びたいと思っている障がいのある人は大勢います」と、「Unpacking」のクリエイティブディレクターを務めるWren Brierさんは言います。「そうしたニーズに応えるのは難しくはありません。デザインにシンプルな工夫を加えるだけでいいのです」

シンプルな寝室から複雑なキッチンまで、どんな部屋でも整理整頓のコツが求められます。

新居で荷ほどき

「Unpacking」の遊び方は簡単です。段ボール箱の中から服や本、小物といったアイテムを取り出し、愛らしいピクセルアートで描かれた部屋の中で、それぞれにふさわしい場所を見つけます。時間も点数も気にする必要がなく、反射神経の良さで差がつくこともありません。

それぞれのパズルは柔軟に作られています。シャツは畳んで引き出しにしまうことも、クローゼットに吊るすこともでき、本は棚に並べることも、コーヒーテーブルに積んでおくこともできます。ステージをクリアする方法はいくつも用意されています。

「こうしたデザインは、そもそもアクセシビリティに向いています」とBrierさんは言います。「私たちは、それをもっと広げてみようと考えたのです」

そしてチームはその言葉通りに実行しました。

画像の説明:Brierさんと、「Unpacking」のテクニカルディレクターであり、インディーズデベロッパWitch Beamの共同設立者でもあるTim Dawsonさんが、引っ越し用の段ボール箱に囲まれています。2人の前には、ゲームのイラストが数点あります。それぞれ湯たんぽ、痛み止めパッチ、様々な薬が描かれています。

例えば、ゲームの重要なヒントは音声以外の方法でも伝えられるので、聴覚に障がいのあるプレイヤーをゲームから排除しません。また、ズーム機能も備わっているので、8ビットのかわいらしいアイテムを自由に拡大して確認できます。

ゲームで遊びたいと思っている障がいを持つ人は大勢います。そうしたニーズに応えるのは難しくはありません。デザインにシンプルな工夫を加えるだけでいいのです。

Wren Brierさん

アイテムを間違った場所に置くと赤い線で囲まれますが、その色を変更することもできます。「特定の色が見えない人や、赤を見ると気持ちが落ち着かなくなる人もいるからです」とBrierさんは説明します。

プレイヤーもゲームの制作に協力しています。ある特殊学級の先生からパズルに苦戦する子どもの存在を示唆され、制作チームはオプションでアイテムをどこに置いても先に進めるモードを加えました。

「シンプルに部屋の模様替えを楽しみたいだけの時は、このモードをオンにしてください。これなら誰でも物語を体験できます」とBrierさんは話します。

画像の説明:柄入りのシャツを着て、赤いフレームの眼鏡をかけたBrierさんが、笑いながら机の前に座っています。Brierさんの前にはゲームのイラストが数点あります。それぞれシャワーマット、手首固定装具、歩行用の杖が描かれています。

個人的な思い

「Unpacking」をプレイしていくうちに、子ども部屋に飾られたサッカーのトロフィーや、書斎にある絵の道具などから、姿の見えない主人公の人柄が徐々にわかってきます。

後半のステージに入ると、荷物の中から薬瓶や手首固定装具、歩行用の杖など、主人公の健康にかかわるアイテムが登場します。そうしたアイテムはBrierさん自身の日常をありのままに反映したものです。2019年、ちょうど「Unpacking」の仕事が忙しくなってきた頃に、Brierさんは多発性硬化症(MS)の診断を受けたのです。

「ものすごく怖かったです」とBrierさんは振り返ります。「何もかも台無しになってしまうのか、私の人生にとってこの病気は何を意味するのか、などと悩みました」

幸い現在では、多発性硬化症は治療によって進行を劇的に遅らせ、症状が出る頻度や深刻さも軽減できるようになっています。Brierさんの場合もそうでした。

「病気ですべてが終わったわけではなかったことに気づき、この体験をゲームで表現したいと考えました」

Brierさんは今も多発性硬化症を抱えながら生きていますが、病気が彼女の人生そのものなのではありません。同じように、「Unpacking」の主人公が歩む人生は、「病気を患った人が徐々に悪化していく過程ではなく、たまたまある症状を持つ人がそれとうまく付き合いながら生きていく様子を、浮き沈みも含めて描いたものなのです」とBrierさんは語ります。

私たちのもとには、「自分の一面を表現してもらえたと思ったのはこれが初めて」「自分が注目されていると感じたことはこれまでなかった」といった声が数多く寄せられています

Wren Brierさん

「Unpacking」がアクセシビリティ機能に注力したことは、慢性疾患やアクセシビリティに日々奮闘するプレイヤーたちの心に響きました。

「私たちのもとには、『自分の一面を表現してもらえたと思ったのはこれが初めて』『自分が注目されていると感じたことはこれまでなかった』といった声が数多く寄せられています。自分という存在を知り、気を配り、ゲームの中で描こうと考えてくれた人がいる。そう思うだけでも、大きな力になるのではないでしょうか」。