ここでは、いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」の開発と運営を手がける株式会社バイオームの創業者、藤木庄五郎さんのインタビューを通じて、アプリの魅力と、私たちが身近な生態系を見つめることが環境保全につながる仕組みを紹介します。
いきものを探して「Biome」にコレクションしよう
道端に何気なく生えている草や花、公園で見つけた虫や鳥など、身近な暮らしの中で出会う様々ないきものたち。「Biome」はそれらをコレクションして楽しんだり、AIを使って名前を判定したりできるアプリです。これまで見過ごしてきた現実の中の自然に目を配ってみることで、風景の見え方さえ大きく変わるかもしれません。

出会ったいきものの写真や情報は、「Biome」の図鑑やマップに登録されます。他のユーザーが集めたデータを見れば、身の回りで見つかるいきものが想像よりずっと多様なことに驚くでしょう。まるでゲームや冒険を楽しむように、身近な生態系を探してみてください。
「Biome」が画期的なのは、それぞれのユーザーがいきもの探しを楽しむことで、生態系の最新の実態がアプリの中にデータとして集積されていくことです。名前や種類が不明ないきものについては、他のユーザーに聞いたり、教えたりもできます。アプリを開発した株式会社バイオーム創業者の藤木さんは、そこには既存の経済活動と並立できる形で、環境保全を前に進める道筋があると語ります。
いきもの大好き少年から、ボルネオのジャングルへ
「Biome」の内容から容易に想像できるかもしれませんが、創業者の藤木さんは物心ついた時には“いきもの大好き少年”だったそうです。そして、その好奇心は当時から環境問題にまで及んでいました。
「いきもの全般にとても興味がありました。親からもらった植物図鑑を使って、近所の植物の種を採取してベランダに植えまくり、ジャングルのようになったこともあります(笑)。
そのうち、外来種のいきものや水質汚染の問題に特に強く関心を持つようになって、小学生の時に自転車で水質検査をしながら、当時とても汚いと言われていた大きな川の流れをさかのぼってみたり、友達と外来魚を駆除するための釣り大会を開いたりしていたんです」

環境を壊すと経済的にもうかる。それを逆転させて、環境を守ることで利益が上がる。そういう仕組みを作りたいと思いました株式会社バイオーム創業者 藤木庄五郎さん
やがて高校を卒業すると、環境問題に取り組むという目標のために、京都大学の農学部へ進学した藤木さん。大学院に進学して生態学を専門とする研究室に所属すると、“生物多様性のホットスポット”と呼ばれる大規模な熱帯雨林がある、東南アジアのボルネオ島へ調査に赴き、そこで衝撃的な現実に直面したと言います。
「ボルネオ島では熱帯林がどんどん伐採されて、油を生産するための大規模なオイルパーム農園に変わっていました。ジャングルどころか、地平線まで木が一本も生えてないような現場を見て、背筋が凍るような恐怖を感じたんです。
最初は、それをどうやって食い止めるかをずっと考えていたのですが、伐採業者とも話をしてみると、彼らには彼らの理屈があって、暮らしのために木を切って売ったり、オイルパームを植えたりしている。そうすると、この問題は生態学というよりも、経済学の領域だと思うようになりました。つまり、環境を壊すと経済的にもうかるという、この仕組みを逆転させられないかなって考えたんです。環境を守ることできちんと利益が上がる。そういうビジネスモデルを作りたいと思って、それがバイオームを作る大きな動機になりました」
アプリから、世界中の生物データを集めたい
環境を守ることで利益を上げる。一見して相反しそうなこのテーマに藤木さんが活路を見出したのは、同じボルネオのジャングルの奥で出会った、村の人々がスマートフォンを使う姿だったと言います。
「本当に電気も通っていないような村で、冷蔵庫もテレビも何もないんですけど、なぜかみんなスマホだけは持っているんです。電気がないから自家発電機を買ってきて、他の家電は何もないのにスマホの充電をしている。これがヒントになって、彼らにSNS感覚で生物のデータをうまく収集してもらう仕組みができれば、世界中の生物データを集める仕組みができるんじゃないかなって考えたんです。生物多様性の領域の大きな課題の一つが、そもそもデータベースがなくて評価ができない、ということなんです。ここから、それをビジネスにするという発想が始まりました」

こうした「Biome」の発想をもっとも感じられるのが、アプリの中で開催されている数々のクエストです。特定の時期や場所で、指定されたいきものを探してコレクションに登録するミッションに挑むと、結果的に最新の生物データがアプリに蓄積されていきます。
「一日中駆けずり回って探して、狙ったいきものをやっと見つけた時の感動って、すごく価値があると思っているんです。その感動を、いきものの知識がない人でも体験できるように設計したのがクエスト機能です。

クエストをより楽しむためには、そのいきものについて事前に調べることが成功率を大きく左右します。例えば“キマダラカメムシ”という昆虫を探す場合、名前だけではピンとこないかもしれませんが、街路樹の桜の木に多くいる、という事実を先に知っていれば効率的に見つけることができますよね」
環境保全を仕事にしたい人へ
藤木さんのアイデアから始まった株式会社バイオームは、今では数百を超える企業や自治体にデータを提供するほどに成長し、2022年には初の黒字化を達成しました。
「アプリを通じて収集された生物データを解析して、企業や自治体が取り組んでいるプロジェクトにデータの提供やレポート作成を行っています。つまり『あなたのプロジェクトにはこういう効果があります』と具体的に示すことで、環境保全の取り組みをサポートして、生物多様性の保全に役立ててもらうことができるんです。今では自治体の生物多様性戦略や国の環境政策に対するニーズも高まっており、その分野でのデータ提供も行っています」

こうした成長の背景には、環境分野への注目の世界的な高まりがあり、生物学を学ぶことの意義が以前よりも大きくなってきたと藤木さんは語ります。バイオームが切り拓いてきた道の後には、もっと多くのいきもの好きな人々が続いていくのかもしれません。
「自分が学生の頃は、生物学を学んでも食べていけないと言われていましたが、今は状況が大きく変わっています。環境関連の仕事に興味があるなら、企業の環境部門で働いたり、研究者として専門分野を極めたり、様々な選択肢があります。
自分にも生物学を学んでいた大学の同期がたくさんいたのですが、当時はみんな諦めて、それ以外の道へ就職をしていきました。今だったら、もっと違う選択肢もあったのではないかと思っています。次の世代の人たちには、好きなことを仕事にするのは無理だと諦めないで、自信を持って進んでほしいと思っています」