

地形に魅せられて
ボール紙による地形模型を何基も作ったのですが、手間と時間がかかります。そこで、コンピュータグラフィックスで再現すればいいと思い、ソフトウェアの制作を始めました杉本智彦さん
山や建造物は、どこからなら見えるのか。高さの情報を元にその範囲を計算し、地図上に色を塗って分かりやすく示したものが「可視マップ」と呼ばれる地図です。
例えば富士山が見える場所に色を塗った地図であれば「富士山の可視マップ」と呼びます。かつては公開されている地形のデータを元に、膨大な計算を繰り返して手作業で可視マップを作った人たちがいました。

元々地形に興味があり、コンピュータでのプログラミングが好きだったという杉本智彦さんは、この計算をコンピュータで行うことで、可視マップの作成が容易になるのではないかと考え、「カシミール」というソフトウェアを開発しました。1994年のことです。それ以来、杉本さんは地形や地図にまつわる数々のAppを手がけています。
高精細な地形データをiOSで
「可視マップ」を「見る」ためのソフトウェアということで名付けられた「カシミール」は、その後、山好きや地図好きのユーザーからの様々な意見を取り入れ、特定の場所から見える景色を表示する機能や、地図上にGPSの記録を重ねる機能などを追加し、進化していきました。PC向けに開発されていた「カシミール」の最新版、「カシミール3D」の機能を、iPhoneやiPadで利用できるようにしたのが「スーパー地形」です。
元は、国土地理院が一般に公開している、5メートルメッシュ(地図を5メートル四方の格子状に区切った範囲)の標高データを活用し、いつでも地形を簡単に見られるようにするため作ったAppでした。国土地理院提供のデータを見やすく加工した、独自の「スーパー地形表現」というアルゴリズムを開発し、実装しています。

一方向から光を当てた陰影表現ではわかりにくい、光に平行な方向の地形なども、凹凸が見やすいのがスーパー地形表現の特徴です。尾根と谷の微妙な高低差もくっきり見えます。
今では、指定した場所から見える景色を山岳名などと共に表示するパノラマ展望図機能や、地域を選んで地形を3D表示する機能、GPSログを記録したり、GPSログを読み込んで地図上に表示したりする機能なども備え、地図と地形のデータを総合的に楽しめるAppになっています。Apple Watchにも対応しており、地図を表示したり、登山時のナビゲーションに使ったりもできます。
ARで立体模型を出現させる
「AR地形模型」は、その名の通り、AR(仮想現実)によって目の前に地形模型を描き出せるAppです。杉本さんが地形に興味を持ったきっかけは、小学生の頃、先輩が自由研究で作成した、ボール紙製の黒部峡谷の地形模型だったといいます。
「黒部峡谷という未知の名前の響きや、見たこともないような非常に急峻な地形にすっかり魅せられ、その後自分でも地形模型を何基も作りました」

この経験が、冒頭でも触れたように、地形模型をコンピュータグラフィックスで再現するきっかけになったわけですが、まさに模型のような地形モデルを目の前に出現させ、他のユーザーとも共有して眺めることができるのが「AR地形模型」です。共同セッション機能により、同じ地形模型を複数のユーザーで共有しながら眺めることもできます。
「地形模型を表示したら、まさに昔CGでやろうとしていた仮想の地形模型が目の前にリアルに再現できるのではないかと思って作りました。昔の試みが数十年を経て、現代のテクノロジーで実現できるとは感無量です」と杉本さん。
ホーム画面にも地図を表示したい
「スーパー地形」や「AR地形模型」で表示できる地図データを、iOSのウィジェット機能を利用して、ホーム画面に貼り付けておけるのが「Map Widget」です。いつでも現在地を中心とした様々な形式の地図を表示しておけます。

ウィジェットは複数配置できるため、好きな地図を何種類もホーム画面に表示できます。古地図と現在の地図を並べて街歩きに活用したり、ハザードマップを表示しておき、いざという時に備えたりするのもいいでしょう。
「iOSのウィジェットが大好きで作ったもので、Appを開いて地図を切り替えなくても、すぐに見たい地図が見られるのが便利です。地図好きにはたまらない機能だと思います」と杉本さんは話します。
コードを見ているだけで楽しい
毎年のように更新される地図データのアップデートや、「スーパー地形」「AR地形模型」「Map Widget」の開発は、杉本さんが一人で手がけています。
「もともと、8ビットパソコンの時代からプログラムを作ることが好きで、いろいろなソフトウェアを作ってきました。プログラムのコードを見ているだけで楽しいのです。コードを書くことが趣味の一つなんですね。でもユーザーさんからポジティブな感想をいただけると、作品として仕上げる時のやる気につながります」

杉本さんは、普段から「スーパー地形」で旅行の行程をすべて記録しています。「1年を振り返って、1年分のログを『スーパー地形』上に表示させ、思い出とともに記録を眺めるのが至福の時間です」といいます。
また「AR地形模型」は、気になる地形があった時に使うそうです。「模型をARで表示し、自分でその周りを動き回る、つまり体感することで、地形がよりリアルに感じられます」と話します。趣味の登山から帰って、GPSのログをARの模型に表示させると、「高い満足感とともに、登山が完結した感じも得られる」のも魅力だそうです。
地図に対する興味、そして趣味の登山とプログラミングが融合して生み出される、地形好きによる地形好きのためのAppたち。今後はLiDARセンサーを使った面白い何かができないかと考えている、と杉本さんはいいます。
様々な地図を見てみると、見慣れた近所の風景からも、新しい発見が得られるかもしれません。杉本さんが生み出す、地形に親しみ、地形を楽しめるAppにぜひ触れてみてください。