舞台裏

感情に訴えかける写真の撮り方

写真家・濱田英明のようなどこか懐かしさのある写真を撮ろう。

のびのびとした表情を見せる子どもたち。写真家・濱田英明さんが撮る写真には、まるでそこにカメラマンが存在していないかのような、モデルの自然な姿が写し出されています。そのような表情のモデルが収められた彼の写真を見ていると、いつか見た光景のような、懐かしさを感じます。

iPhoneを使った撮影の中で、濱田さんならではの撮影や編集のテクニックが活かされています。

「誰でも昔は子どもでした。たとえ僕の写真に写っているようなことをしていなかったとしても、似たような経験、記憶というのはあるはず。だから、見てくれる人が懐かしい、と感じるのかもしれません」

リアリティのある色よりも、ファンタジーのような色調。そのような色の方が、見る人の気持ちが入る余地が残るのではと思っています

濱田英明さん

「今回の撮影も、僕が撮る子どもたちの写真と根本的には同じで、誰もが持っている記憶を、どのようにすれば写真として表現できるか。その点について考えていました」

写真の風景が、自分の心の奥に眠る感情や記憶と自然に重なるとき、見る者は懐かしさを覚えるのでしょう。そして、濱田さんはこう続けます。

「僕と被写体との距離感を大切にしています。今回の撮影も前半はモデルの方とお話しすることに注力しました。写真を撮ることを目的にする、というよりは、結果として写真を撮ることが自然なことだった、というようなアプローチを心がけています」

自然体なモデルの表情は、彼との関係性から引き出されていたのです。

マニュアル撮影ができる「Halide」を使って、公園を散歩しながら撮影していく中で、彼の写真が持つ「色」も、感情に訴えかける一つの大きな要素であることが伝わってきます。

「リアリティのある色よりも、ファンタジーのような少しぼんやりしたもの。そのような色調の方が、見ている人が、より感情的に写真に入りやすいのではと思っています」

「『VSCO』は、フィルム写真の再現力がすごく魅力的で、リリースされた当初から使っています。iPhoneでもデジタルカメラでも、基本的にはRAWで撮るので、撮影後に『VSCO』で編集することが多いです」

そんな濱田さんは、写真編集App「VSCO」の、FP8、A6、A8といったフィルターをよく使うと話します。

では、濱田さんは「VSCO」でどのような編集をしているのでしょうか。

「VSCO」は、フィルムの階調表現が魅力的なAppです。

「まず、ハイライトを抑えたり、シャドウ部分を明るく、もしくは引き締めたりといった露出調整、それから、寒色寄りになった時は、少し暖色の方に戻したりといった、色温度調整からはじめます。それからその時の気分でフィルターを選びます」

「そして、少し彩度を下げたり、少しカラーバランスをグリーンに寄せたりもします。あとは、フェードを使うこともありますね。この辺りが、フィルムで撮影したような雰囲気につながっているのかもしれません」

可能であれば、すべてフィルムで撮りたいものの、気軽に撮れる枚数や、暗いところでの撮影能力など、フィルムでの撮影には制約がつきまとうのが事実です。「VSCO」が好きな理由は、そこにあると濱田さんは話します。

「今回は『Halide』を使って撮影しましたが、iPhoneはコンパクトで機動性があるので、一眼レフカメラでは撮れないような画角での撮影ができます。構図やタイミングを決めきらずにシャッターを切っても、うれしいハプニングがあります。そういう偶発性はiPhoneならではでしょう」

もともとは写真家ではなかった濱田さん。インターネット上で、子どもたちの写真を発信し続けたことで、好意的な反響があったため、写真家になることを決意しました。そんな彼は、インタビューの最後にこう語りました。

「色の表現や、編集の話をしてきましたが、結局は人それぞれ好みがあります。ぜひ皆さんの好きな色合いを見つけてください。そして、もし仕事でなくても好きなことがあって、それをやり続けているなら、周りのポジティブな意見に耳を傾けてください。皆さんが気づかなかった、新しい自分に出会えるかもしれませんから」

このストーリーに登場した写真の
撮影と編集に使用したApp

濱田さんのインタビューストーリー