変化をもたらす

ゲームのように楽しむために

「Standland」と「算数忍者AR」に込められたゲーミフィケーションとは。

毎日の暮らしをサポートしてくれるものから、既成概念を覆す革新的なものまで、Appは私たちの生活を豊かにしてくれます。

例えば、「算数忍者AR」と「Standland」という2つの優れたAppをご存知でしょうか。「算数忍者AR」は、AR(拡張現実)で現実空間に忍者の街や城を映し出し、画面上の計算式の回答を持った村人をその中から探す、という教育Appです。そして「Standland」は、15種類の愛くるしいフレンドたちが、1日の中で定期的に立ち上がることを応援してくれるヘルスケアAppです。

まったく異なる目的で生まれた2つのAppですが、どちらも「退屈に思える作業を楽しいものに変える」という課題を解決するために、ゲームのように楽しめる要素を取り入れています。今回、「算数忍者AR」のデベロッパ、Fantamstickのベルトン シェインさん、そして、「Standland」のデベロッパ、Flaskの小川秀子さんと堀内敬子さんに、Appにおける課題解決のための「ゲーム性」について伺いました。

上から時計回りに、Flaskの小川秀子さん、堀内敬子さん、Fantamstickのベルトン シェインさん。

先日、WWDC(世界開発者会議)が開催されましたが、どの発表に注目されましたか。

Fantamstick ベルトン シェインさん(以下、ベルトン): 引き続きARですね。ARKit 2が登場したことにより、複数のデバイス間でAR空間が共有できるようになりました。現段階の「算数忍者AR」は、一人のプレイヤーにつき一つの問題を解くスタイルですが、子どもたち数人が一つの問題に取り組めるようなものを作りたいなと考えています。

そのアイデアをちょうど考えていた矢先に、WWDCで発表されたのでびっくりしました(笑)。もともと考えていたので、もうアイデアは固まっています。

Flask 小川秀子さん 堀内敬子さん(以下、小川、堀内): うらやましい!

堀内: WWDCが終わり、今はどんどんアイデアを膨らませている状況です。今回のWWDCで注目しているものの一つが、現実の世界に仮想オブジェクトを残せる「パーシステントAR」です。

例えば、この機能を使うと、「Standland」のAR機能で配置したキャラクターや植物を保存することができるので、別の日にAppを開いても、同じ環境が現れます。部屋の一角を「Standland」ゾーンにできるなど、よりAppを使ってもらうモチベーションにつながるかもしれませんね。

「Standland」では、立つことを支援してくれるキャラクターたちが、カメラを通して現実世界に映し出されます。

デベロッパとして、どちらも新しいテクノロジーを積極的にAppに取り入れられている印象がありますが、皆さんは「テクノロジー」をどのように捉えていますか。

小川: やっぱり新しいテクノロジーは可能性を広げてくれますよね。新しい面白味も加わり、ユーザー体験がどんどん豊かになっていくイメージです。

ベルトン: 僕も同意見です。新しい何かが生まれると、それに既存のものを掛け合わせることで、よりいいものが生まれる。新しいテクノロジーがすべてではなく、既存の何に掛け合わせるのかが重要だと感じています。

「算数忍者AR」では、実際に動き回って、上に表示される計算の答えを持った村人を探し出します。

「算数忍者AR」と「Standland」には、ゲームのように楽しめるという共通点がありますよね。

ベルトン: 僕はもともと勉強が嫌いでした。学ぶ、というのは繰り返しの作業でしたから。それをどうすれば長続きさせられるのか。退屈な作業を楽しいものに変えると、その体験はがらっと変わります。そこでゲームのような要素を盛り込むこと(ゲーミフィケーション)に自然と行き着きました。

堀内: 私はもともとあまり運動をするタイプではなかったのですが、運動をするきっかけづくりになればと、運動の記録を簡単につけられる「FitPort」を作りました。運動データがきれいに可視化される点には満足したのですが、運動を続けるにはもっと背中を押してくれる何かが必要だと感じていました。

小川: その要素とは何か、と考えた結果、「集める」というゲーム要素に行き着きました。何かを集めることがモチベーションになり、背中を押してくれるのではと考え、自然と今の形になりましたね。

新しいテクノロジーがすべてではなく、既存の何に掛け合わせるのかが重要だと感じています

ベルトン シェインさん

ベルトン: ゲーミフィケーションという言葉がよく使われるようになりましたが、あくまで大事なのは体験そのものです。「算数忍者AR」では、3D空間にあえて2Dのキャラクターを配置することで、飛び出す絵本のような表現にこだわりました。デザインは、体験を生み出す中で大事な要素の一つですからね。

小川: ゲーミフィケーションという体験があることで、Appを使いたいと思ってもらうことが大事です。となると、デザインはその前提にあるものです。デザインのベースがないと、ゲーミフィケーションを取り入れてもその楽しさが伝わらず、元も子もない状態になってしまいます。

すべては体験であることを考えると、ゲーミフィケーションの可能性はまだまだ広がりそうですね。

ベルトン: そうですね。iPhoneやiPadを通じて、今まで以上に「学ぶ」という行為を継続的に繰り返すことができると感じています。教育とゲーミフィケーションは必然的な掛け合わせでしょうね。

小川: 今まで私たちのAppは、フィットネスに興味がある人に使ってもらっていましたが、「Standland」はその間口を広げてくれた気がします。

堀内: 運動が苦手な人でも、プレッシャーを感じずに遊ぶ感覚で取り組める。ゲーム要素が先にあって、運動が二の次になることで、よりハードルが下がるのであれば、私たちはこれからもその体験を目指していきたいです。押し付けられるのではなく、気づいたら楽しんでいる、そんな体験が理想ですね。


少し話を変えて、デベロッパとしてのやりがいについて教えてください。デベロッパとして何に一番モチベーションを感じますか。

堀内: 私はデベロッパでいることにモチベーションは関係ないと思っています。Appを作っていること自体がとにかく楽しいし、それを使ってくれた皆さんから感想をいただけるとすごくうれしいですから。

ベルトン: 僕もスタンスは同じです。できないことができるようになる、子どもたちのそんな姿をイメージして形にしてきました。簡単にイメージできるものや、やれることをやり続けていると、モチベーションは続かないと思います。それが僕のモチベーションですね。アイデアを考えて膨らませているときがすごく楽しいです。

最後に、お互いに作ってほしいAppはありますか。

小川・堀内: 子どもたちがワイワイみんなで同時に遊びながら学べる、そんな体験ができるARのAppを作ってほしいですね。

ベルトン: Flaskのお二人には、筋トレを楽しくしてくれるAppをお願いしたいです。ワークアウトそのものやジムに行くことが楽しくなればすてきだなと思います。