雑誌などをめくっていると目に入ってくる、手描きのイラストレーションで表現される、洋服のコーディネートや、カフェの内装。日本では見慣れたイラストレーションのスタイルが、一人のイラストレーターの未来を大きく変えました。
彼の名前はAdrian Hoganさん。オーストラリアはメルボルン出身のイラストレーターです。
「自分はペンを握って、手描きのイラストレーションを制作するのが好きなんです」
そのように話す彼は、手描きのイラストレーションを自身のスタイルとしています。財布は忘れても、小さなスケッチブックとペン、そしてiPad ProとApple Pencilなど、スケッチするためのツールは忘れないと言います。街の中やカフェで、目に入るものを感じるままにスケッチするためです。

Hoganさんは、2013年にオーストラリアから日本にやってきました。
「日本のイラストレーションの使われ方はオーストラリアと違ってすごく興味深かったんです。日本では手描きのイラストレーションが多く使われている。もともと自分はマウスではなく、スケッチブックとペンというスタイルが好きだったこともあり、自然と日本でイラストレーターとして活動したい、と思い始めたのです」
海外から日本へ移住する人が、文化の違いを感じるように、彼にもそんな経験がありました。Hoganさんは、当時のことを振り返りながら、目を細めます。

「日本に来てすぐ、日本の街、特に東京はすごくフラットだな、と感じました。高層ビルの屋上に行けば話は別ですが、街の中にいると、周りをビルに囲まれているので、遠くまで見通すことができませんよね。視界が開けることも少なく、多くのビルが高いので、ほとんど高低差を感じないからフラットに感じる。それに比べて、メルボルンやパリ、そしてニューヨークでは、通りに立つと、すごく遠くまで見える。日本に来た頃は、離れたところから目印になるランドマークが見つけにくいというのもあり、よく道に迷っていました」

「そういう理由から、出かけ先や、自分が住んでいたエリアの様々な場所をスケッチしました。スケッチすることで、見えていなかったディテールが見えるようになるのと、その風景に慣れることができます。僕は風景で街を覚えるので、そうすることで街に慣れていきました」
そして、東京に住むことで、自身のイラストレーションにも変化が見られたと言います。
「東京のビルはグレー、ベージュ、ブラウンのような色で構成されている反面、人々が着ている服はすごくカラフルです。そのコントラストが面白い。また、ビルの色がシンプルなので、季節の移り変わりによる色の変化がよく見えるようになりました。その影響からか、日本に来てからはより多くの色を使うようになりました」

来日して8年ほど経った今でも、Hoganさんは街のスケッチを続けます。
「スケッチすることで、文化的な部分も見えてきます。ガイドブックには、日本人はお礼をする時にお辞儀をする、と書かれているかもしれませんが、そうすると観光客は、コンビニやレストランで深々とお辞儀してしまいますよね。でもお辞儀には、角度含め様々なニュアンスがあります。そういう細かい部分も見えてくるから、スケッチは文化的にも自分が日本にフィットするのに役立ったと思います」
「カフェなどでスケッチをしていると、それがきっかけで出合いやコミュニケーションが生まれます。スケッチって非社交的な部分と社交的な部分の両方を持っているように感じます」

「日本に住んでしばらく経った今、それぞれのシーンで生まれるストーリーが見えるようになってきました。スケッチというのは、現実世界のある瞬間を閉じ込めたものなのです」
彼の目線で感じ取られたストーリーが、彼のスケッチを通して私たちに届けられるのです。今日外に出かけたら、一度ゆっくりと周りを見渡してみてください。いつもは見えないストーリーにきっと出会えることでしょう。
HoganさんがiPad ProとApple Pencil、さらに「Procreate」を使って、どのようにイラストレーションを制作するかは、こちらのストーリーで紹介しています。
「Procreate」はiPadで利用できます。iPhoneでは「Procreate Pocket」が利用可能です。