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TikTokで人気のLGBTQ+グループ

米国で話題の高齢者4人組「Old Gays」とは。

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同性愛の性的指向を公言している、歯に衣着せぬ高齢者4人組、Old Gays。彼らはこの2年間、数々の動画をソーシャルネットワーク上に投稿し、話題をさらってきました。新たに手にした名声が彼らにもたらしたのは、現実離れした様々な体験です。「アメリカンアイドル」の審査員などで知られる歌手のポーラ・アブドゥルや、アイドルグループ、イン・シンクのメンバーだったランス・バスといったアーティストたちとダンスで競演したばかりか、なんと歌手のリアーナが手がけているランジェリーコレクションのモデルも務めたのです。

それでも、米国カリフォルニア州で開催された音楽イベントのコーチェラ・フェスティバルで受けた歓迎は、Bill Lyonsさん、Jessay Martinさん、MickことMicahel Petersonさん、Robert Reevesさんの4人にとってまったく思いがけないものでした。「TikTok」のフォロワーが約700万人いても、大勢の20代のトップスターやインフルエンサーたちの中で、自分たちが注目されるとは思っていなかったからです。「会場に着く前にみんなで話していたんですよ。我々に気づく人なんているのかな、ってね」とReevesさんは言います。

TikTokで人気を呼んだ“Linda and Heather Best Friends”に合わせて踊る、Old Gays。

しかし、ReevesさんとOld Gaysの仲間たちがフェスティバルの会場に姿を現すと、ハグとセルフィーの撮影を求めるZ世代のファンたちにもみくちゃにされます。「広いポロのグラウンドにいたんですが、歩いて横切るのに30分もかかりました」とPetersonさんが話します。「右からも左からも引きとめられてね。自分たちには今これだけの影響力があるんだということに改めて気づきました」

彼らに成功をもたらした鍵は、「TikTok」という環境にふさわしい、おおらかで愛嬌いっぱいの動画でした。作り込んだ歌と踊りのナンバーもあれば、その時話題のチャレンジに参加した愉快な動画もあり、さらにはゲイの男性として生きてきた個人的な記録もあります。その中で、視聴数2,400万回を記録し、今もその数を伸ばしているのは、若い頃の写真と並んで同じポーズをとり、今と過去の自分を比べる動画です。

「若い視聴者にとって私たちは、持ったことのないゲイの祖父のような存在なんですよ」とPetersonさんは言います。

はじまり

Old Gaysのメンバーは、カリフォルニア州の砂漠の都市カテドラルシティで出会い、LGBTQ+の人々が暮らしやすいこの街で、長年親しく近所づきあいをしてきました。「みんなで集まって食事をしたり、旅行に行ったりします」とPetersonさんは言います。「Old Gaysを始める前から、気の合う仲間でした」。

2019年、ソーシャルネットワークの達人で友人のRyan Yezakさんにすすめられ、4人は動画シリーズを撮影し、「YouTube」と「Grindr」に投稿しました。その中で、メンバーたちは遠い昔の失恋からカミングアウトの経験まで、あらゆることを語り合っています。

プラットフォームを「TikTok」に移すことを提案したのもYezakさんでした。Old Gaysのメンバーたちは「TikTok」のことをほとんど何も知らず、「『チクタクって、それは時計の一種かい?』と聞きましたよ」とReevesさんは笑います。

Old Gaysのメンバー、Jessay MartinさんとBill Lyonsさん。

Yezakさんが加わり、コンセプト作りとプロデュースを始めたものの、最初はなかなかうまくいきませんでした。Old Gaysの初期の作品の一つに、メンバーたちがヒップホップのグループ、ナッピー・ルーツのヒット曲「Good Day」のカバーに合わせて、ワンテイクで途切れずにリップシンクしながら踊る動画があります。4人はこれを1日もあれば余裕で撮れるだろうと思っていましたが、数時間のリハーサル後、努力する余地がだいぶあることが明らかになりました。

「Mickはなぜかガラスの引き戸で手を切るし、Robertは朝食を抜いたせいで気絶しかけるし、Billは中庭のテーブルで下を向いて寝ているし」とYezakさんは振り返ります。「『もう今日は無理だ』と思いましたね」

それから約2週間続いたリハーサルは、60代から70代の男性である彼らにとって気の重い仕事でした。しかも人前で何かを披露した経験があるのは、俳優のPetersonさんと、歌手で聖歌隊の指揮者だったMartinさんの2人だけです。しかし、視聴数が増えていき、その後、スポンサー契約からの収入を手にすると、続けることに意欲が湧いてきました。

「このプロセスは、彼らが少しずつ『TikTok』やソーシャルネットワーク、そしてこの新しい世界の仕組みを理解していくのにとても役立ちました」と話すYezakさんは、様々な形式の動画を試し、人目を引く新しいインターネット上の流行にも、ためらわずに挑戦することを4人にすすめました。

ハリー・スタイルズの最新シングル“As It Was”に合わせて踊る、Old Gays。

初期の動画のうち、290万もの「いいね」がついて大ヒットした作品は、「ベビーブーム世代はワクチンを受けた?(Boomers Got the Vax?)」というYezakさんの問いかけに、メンバーたちが戸惑った反応をするという、とりわけシンプルなものです。「『TikTok』が素晴らしいのは、常に自分の行動を見直すきっかけになっていることだと思います。メンバーたちが新たな境地を開いてこれたのもそのおかげです」とYezakさんは話します。

その後も、歌手のニコール・シャージンガーとのダンス動画から、LGBTQ+の権利について鋭い意見を述べたものまで、グループは多彩な動画を次々に投稿しています。そこには、トランスジェンダーの子どもたちの性転換手術と第二次性徴抑制剤の使用を、性別適合のための治療ではなく児童虐待として捜査するよう指示したテキサス州知事に抗議するシリーズも含まれています。

最近のOld Gaysは、週6本以上の動画を撮影することもあります。「動画が増えれば、それだけ反応が返ってくる。動画によって、自分たちの思いを表現する場が与えられていることに気づいたのです」とReevesさんは言います。「きっと誰の心の中にも役者が住んでいるのだと思います」

動画が増えれば、それだけ反応が返ってくる。動画によって、自分たちの思いを表現する場が与えられていることに気づいたのです

Robert Reevesさん

生き様を見せる

メンバーは4人とも、ほとんどの同性愛を指向する人々がカミングアウトできなかった時代に育ちました。そのため、彼らはLGBTQ+の代弁者としての責任を真剣に受け止めています。

「私はゲイであることを打ち明けられず、孤独な気持ちを抱えて育ちました」とReevesさんは打ち明けます。「相談できる人がいなかったので、一人で生き方を模索するしかありませんでした。今は大勢のロールモデルがいるので、たくさんのポジティブなイメージを支えに、アイデンティティを築いていける時代になりましたね」

Old Gaysのもとには、同性愛が違法である国を含め、世界中の同性愛を指向する若者からのメッセージが頻繁に届き、そこにはゲイの存在を大きく可視化している4人への感謝の言葉が綴られています。また、数十年も前に自らのアイデンティティに気づいた人々にとっても、このグループは年を重ねることで人生が豊かになる可能性を見せてくれる存在です。

Michael “Mick” PetersonさんとRobert Reevesさん。

もちろん、人はそれぞれ外見も違えば、感じ方も異なるでしょう。しかし、だからといってウサギの耳のコスチュームをつけて踊っていけないことはありません。「(年をとったら)消えてしまうわけではありません。生きていれば、望む限りいつまでも人気者になって活躍できるのです」と、Petersonさんは断言します。

とはいえ、こんな1年を過ごしてきたOld Gaysにも、たまには休息が必要です。コーチェラでファンの群れに数時間も囲まれた後、メンバーは疲れ果て、その晩をお開きにすることにしました。ただし4人全員というわけではなかったようですが。

「夜10時半頃までは頑張っていましたが、ほかの3人がそろそろ帰りたいと言い出しました」とPetersonさんは言います。「私は残るように誘われたんですが、一緒に引き上げることにしたんです。仲間ですから」

「TikTok」の達人になるための5つのヒント

Old Gaysのメンバーが、「TikTok」のプラットフォームであなたらしさを表現し、多くの視聴者に動画を届ける秘訣を教えてくれました。

定期的に投稿する

Old Gaysは、週に5本から7本の新作を投稿しています。「やりすぎはいけませんが、流れを途切れさせないことが大切です。それがアルゴリズムの仕組みなんです」とPetersonさんはアドバイスします。

前もって計画を立てる

Old GaysのマネージャーとなったYezakさんによると、グループは、撮影以外の時は、アイデアを出し合い、リハーサルをしています。「やることが多ければ、6~8時間くらい一緒にいることもあります」。幸い、Ryanさんもメンバーの4人も歩いてすぐのところに住んでいます。

思いつきも大切に

iPhoneなら手軽に撮影でき、使うための許可をとる必要もないことから、メンバーが集まればたちまちどんな場所もミニスタジオになるとYezakさんは言います。時には、ひらめいて路上で撮影することもあるそうです。

過去の経験を活かす

「視聴者はみんな、私たちの過去の人生に興味津々なんです。私たちがどんな世界で成長してきたのかを知りたがっているんですよ」と話すのはReevesさんです。「若い頃の写真を使ったり、当時のことを語り合う動画を作ると、大きな反応がもらえます」

いつも明るく前向きに

「楽しくて幸せな、心地いいメッセージを伝えてください。人々が求めているのはそうしたものです」とPetersonさんは忠告します。「『TikTok』は、健康的な気晴らしになります。そしてストレスになりそうなものから解放してくれるんです」