舞台裏

武内崇さんに聞くサーヴァント誕生秘話

Fate/Grand Order

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歴史が書き換えられ、わずかな残り時間をもって滅亡が確定してしまう、という途方もない災厄を目前に突きつけられてしまった人類。マスター候補の魔術師だったあなたは、神話や伝承、歴史の中の英雄たちを英霊(サーヴァント)として召喚し、書き換えられた歴史を修正する旅を繰り返します。

壮大な物語を2015年から紡いできた「Fate/Grand Order」(以下FGO)の、アートディレクションや一部サーヴァントのデザインを担当するノーツ代表、武内崇さんに、FGOのサーヴァントがどう生み出されるのかを聞きました。

英雄を“解釈”して生まれるサーヴァント

神話に登場する神、伝承の中の英傑、歴史に名を残した実在の英雄、ゲームブランドTYPE-MOONの別の作品に登場した人物——。FGOには様々なサーヴァントが登場しますが、そこには単純に資料や史料を元にした再現や想像とは異なる、FGO独自の解釈があると武内さんは話します。

ノーツ代表、Fate/Grand Orderリードキャラクターデザイナーの武内崇さん

武内崇さん:「大前提として、FGOのサーヴァントたちは、ゲーム上レアリティの設定はされていますが、すべて等しく英雄です。レアリティが低いから重要度が低い、といったことはなくて、それぞれみんな英雄として輝く存在であることを守ろう、というルールの下でやっています。

その上で、FGOで英雄がサーヴァントになることというのは、『Fate』シリーズの世界、それは(メインシナリオライターの)奈須きのこの世界観でもありますが、その中でその人物がどういう風に解釈されるか、ということだと私は考えています。セイバーやアーチャー、ランサーといったクラスのどれに属するかから始まって、性別であったり、見た目であったりと、多岐にわたります。そして作り上げた設定にリアリティや説得力があるかも重要です。単純にかわいい女の子にしました、というだけにはしないように心がけています。

FGOではサーヴァントが女性として描かれることが多い、と指摘されることもありますが、必ずしもそうではなくて、男性だった人物を女性として描くのであれば、それをちゃんと魅力的に転換するような物語上の仕掛けであったり、理由付けであったりを可能な限り用意しています」

アーサー王伝説を出典とするサーヴァント、アルトリア・ペンドラゴン。

その例として、武内さんはFGOで女性として描かれているサーヴァント、宮本武蔵を挙げます。

武内さん:「FGOでは人物の性別が変わる場合、“実は女性だった”や“生前とは別の体で現界している”などのパターンがありますが、武蔵はそれのどれにも当てはまらない、“女性だった武蔵”という別の世界の存在となっています。これは単なる力技ではなく、この別世界というのが、メインシナリオ第2部で描かれる“異聞帯”へとつながっていきます。このような設定的な補強を行って、その補強がさらに世界観やシナリオにもフィードバックされています」

とはいえ、笑いの要素も多いFGOのイベントシナリオの中では、登場したサーヴァントに対して「○○さんは男性だったはずでは」といった会話が出てくるなど、シナリオライター陣が性別の転換を楽しんでいる様子もうかがえます。

武内さん:「サーヴァントの設定を検討するキャラクター会議では、各参加者からいろいろなアイデアが出ます。また、キャラクターデザイナーからも思いがけないアイデアをもらうことも多く、それをシナリオライターがうまく取り入れてくれることで、物語がかき回されていくようなところもあるかもしれませんが(笑)、それも含めてFGOの面白さなのかなとは思います」

「Fate/stay night」など他のTYPE-MOON作品のサーヴァントもFGOの世界に登場します。

サーヴァントが絵になるまで

サーヴァントがFGOに実装される際には、まず言語化されたイメージを元に、デザイナーに発注され、ビジュアル化されます。武内さんによると、大まかには以下のような流れで進みます。

武内さん:「サーヴァントによっていろいろなケースがあるのですが、よくあるパターンとしてはシナリオライターから土台となる設定をいただき、詳細をTYPE-MOONのスタッフを交えてのキャラクター会議で決め込んでいきます。こういう英雄を、こういうサーヴァントにしたい、という話から、デザイン的にはこういう風にしていこうとか、(ストーリーの中で)こんな使い方をしていこうといった話をしていきます。そして、このサーヴァントがこういう人物なのであれば、FGO的にはこういう解釈をしよう、といったことを話し合い、その解釈の過程でコンセプトを固めます。何をしたいか、どこを目指すか、ということを決めてから、デザイン的な肉付けをしていく形です」

アルトリア・ペンドラゴン〔オルタ〕のスケッチ。

FGOの魅力的なサーヴァントたちは、武内さん、そして奈須きのこさんを初めとするTYPE-MOONスタッフたちの議論の中から生まれ、魅力が磨かれていくのです。

一方で、先に制作を進めていたキャラクターをシナリオに当てはめていく、という場合もあるといいます。

武内さん:「デザインが仕上がってから、バトル時のモーションや宝具の演出などを加えていくため、サーヴァントの実装までには、実は1年くらいの時間がかかります。シナリオの完成を待ち、その場で都度発注する流れだと、忙しいデザイナーさんとスケジュールが合わない、といったことも起こり得ます。そのため、ある程度コンセプトを固めてサーヴァントのデザインを先にお願いしているケースもあります」

アルトリア・ペンドラゴン〔リリィ〕のスケッチ。

こういった場合、仕上がってきたデザインがすごく個性的で、そこからシナリオが出来たり、イベントのストーリーが少し変わったりすることもあると武内さんは言います。

武内さん:「シナリオライターとキャラクターデザイナーは、お互いに尊重し合う形で仕事ができていると感じています。もちろん、明確なビジョンを持って発注を行っていますが、がんじがらめにするようなディレクションをすることはありません。デザイナーさんが思い入れを持って描いてきてくださったものに対しては、ライターも柔軟に受け入れる、というスタンスでいてくれるので、そこはデザイナーとしてもすごくやりがいを感じるところだと思います」

実際メインシナリオの第2部 第6章 妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェに登場したサーヴァントのオベロンは、キャラクターデザインをマンガ家の羽海野チカさんが担当したことで話題になりましたが、羽海野さんとシナリオを書いた奈須さんの間でのシナジーを強く感じたと話します。

オベロンはキャラクターデザインを羽海野チカさんが担当したことでも話題になりました。

武内さん:「第2部 第6章では、奈須の中に明確にキャラクターのイメージがあり、具体的に誰にどういうことをお願いしたい、という希望もはっきりありました。サーヴァントのデザインはその要望を元にお声掛けしていったのですが、そのプロセスはまるで映画の配役を決めるような感じでした。そして依頼を受けてくださったデザイナーさんも、ライターの要望を受け止め、理解して戻してくださって、映画のキャストのように作品に深く関わるような形でサーヴァントを描いてくださったんです。

オベロンを担当してくださった羽海野さんも、単に発注されたものを描く、というところを超えて仕上げてくださいました。依頼を受けるからには、羽海野さんが求めるものもすごく大きかったと思うんですね。あらゆる面でその期待と信頼に応えないといけない、というプレッシャーも感じました。それを一番強く感じていたのが奈須でしたが、彼自身ギリギリのところまで自分を追い込んで、しっかり自身の仕事で応えられたからこそ、二人の信頼関係は強くなっているんだろうな、と感じます」

アーキタイプ:アース誕生秘話

7周年を記念して登場したサーヴァント、アーキタイプ:アースは、武内さんがデザインを手がけました。

アーキタイプ:アースの元となっているのは、FGOの原案やシナリオなどを手がけるTYPE-MOONの、ビジュアルノベルゲーム「月姫」のヒロイン、アルクェイド・ブリュンスタッドですが、彼女がFGOの世界に登場するにあたって、霊基第三にFGOなりの解釈が加えられました。

キャラクター会議で、実装するサーヴァントについて打ち合わせをしている時に、奈須さんから「次の周年はアルクェイドでいこう」という提案があったと言います。「とはいえアルクェイドとしてではなく、TYPE-MOONの世界設定にある『地球の頭脳体』であるアーキタイプ:アースを名乗るサーヴァントにしよう」と奈須さんに言われ、武内さんは「さすがの遊び心だな」と思ったそうです。

武内さん:「ファンのみなさんの多くは、アルクェイドなら例えば『月姫』コラボレーションイベントのようなもので実装されるのだろう、と考えるんじゃないかと思うんです。リメイク版の『月姫 -A piece of blue glass moon-』が2021年に出たこともあって、みなさん期待もしているでしょう。それに対して、(奈須さんは)安易に予想通りになることは選ばず、その求められていることに関して、別の意味合いを乗せて、求められているもの以上の答えを返すみたいなことを、ぱっとやれちゃう人なんですね」

蒼崎青子、アルクェイド・ブリュンスタッド、セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)、両儀式という、TYPE-MOONの4大ヒロインの一角ということで、アーキタイプ:アースのデザインには並々ならぬ想いを込めました

武内崇さん

FGOの世界に召喚されたアルクェイドがどのようなサーヴァントなのかは、ゲームの中でぜひ体験してほしいと武内さんは話します。

武内さん:「元々アルクェイドには、天真爛漫な女性という一面と、“姫アルク”といわれる吸血鬼の真祖の状態があります。アーキタイプ:アースは姫アルクの状態がメインではあるんですけど、再臨段階が変わると、通常のアルクェイドに近いような状態にもなります。アルクェイドに求められる要素はなるべく詰め込んだつもりです。再臨段階が変化した時の、サーヴァントの上位版みたいな絵を用意するのはいつも大変なのですが、霊基第三再臨に関しては、姫アルクをさらにもう一段階デザイン的に上に持っていくことを目指して四苦八苦しました。気に入っていただけたらうれしいです」

7周年を超えて、第2部のクライマックスへ

サービス開始から7年を経て、「人理の修復」を巡るFGOのメインストーリーは、第2部 6.5章まで進んでいます。武内さんは、今後の展開についてこう話します。

武内さん:「いよいよ、12月には第7章の配信を予定しています。みなさんに付き合ってきていただいた物語が、そのクライマックスに向けて、最後のアクセルを踏む、という段階です。それに備えていろいろなアイデアを考え、用意しています。第1部のクライマックスを超える、過去最大の盛り上がりを作っていけるようにと仕込みを続けてきて、ようやく具体的なものが見えてきたな、というところです。楽しみにしていてください」

ジャンヌ・ダルクのように、史実を出典とするサーヴァントもいます。