INDIE SPOTLIGHT

クリエイターとして
世に問う作品
お絵描きを人に見せたくない子どもたちに、大人たちに、もっと絵を描いてもらいたい。そんな想いがこもっています
UZZ 池田トムさん

App Storeでは、個人で、あるいは少人数で、ゲームを開発するインディーゲームデベロッパが活躍しています。池田トムさんは、Onion Gamesの「勇者ヤマダくん」「Million Onion Hotel」など、数々のインディーゲームの開発にシナリオライターやプランナー、ディレクターとして携わってきたゲームデザイナーです。2025年にUZZを創業し、お絵描きを楽しめるノベルゲーム「愛よさらば(A FAREWELL TO AI)」をリリースしたトムさんに話を伺いました。

AIと共に、AIに反逆する

「愛よさらば」は、絵を描き、表現することを禁じられた、AIが支配する未来の世界で、あなたが様々な絵師たちと出会い、絵を描くことで革命を起こすノベルゲームです。

ゲーム内では、様々な地域の、異なる時代背景を持つ絵師たちと出会い、それぞれの物語が展開されます。AIが統治する世界に反発し、絵師たちがAIへの反逆を企てるこの世界で、その絵師たちのリーダーもまたAIである、というミステリーに想いを馳せながら物語を楽しんでください。

物語が進むと、あるタイミングで絵の「お題」が提示されるので、あなたは制限時間内に、そのお題に合った絵を描くことになります。描き上げた絵は、AIが「絵ゴコロ」を判定し、スコアを算出します。このスコアは、単純に絵が上手なら得点が高い、というわけではなく、さまざまな要素を見ており、AIが評価のポイントもコメントしてくれます。指定された「絵ゴコロ」のスコアを超えられると、物語が先へ進みます。

描いた絵をAIが評価する、という変わった仕組みを思いついた背景を、トムさんはこう話します。

「もはやAIなしではゲームは作れないといっても過言ではない時代です。あらゆるツール、分野にAIが自然と組み込まれています。とはいえ、私たちクリエイターは、その利便性に依存するわけにはいきません。AIをただ使うのではなく、自分なりに面白く料理しなくてはいけない。そんな自戒の念も込めて、AIの使い方に一石を投じられるようなゲームを、と考えました」

「絵ゴコロ」を判定するAIには、さまざまな絵を学習させていて、その中には小さな子どもが描いた絵なども含まれるといいます。「のびのびと、描きたいものを楽しく描くってすごいファンタジーだと思いませんか。宇宙に1つしかない作品がバンバン生まれるんです」とトムさんは笑います。

誰もが楽しく絵を描ける場

トムさんの小学生の子どもの存在も、「愛よさらば」の開発に大きく影響を及ぼしたそうです。

「娘は絵を描くのが好きなのですが、その絵を見せてくれることはあまりありません。描いた絵が何枚もランドセルの底に隠してあったことがあり、ショックでした」(トムさん)

また小学校の先生から、「絵を描くのは好きだけど見せるのは好きではない」という子どもが、他にも少なからずいると聞いた池田さんは、ある日彼女に、制作中の「愛よさらば」をテストプレイしてもらいました。プレイ中の絵を見せてくれることはありませんでしたが、翌日こっそりストレージを見てみると、そこには彼女の素晴らしい絵が70枚も残っていたといいます。

「人に見せるのは抵抗があっても、ゲーム内のAIキャラクターだったら、見せても恥ずかしくないんだ、むしろそのAIの距離感が人よりも安心感があったんだ、と気付かされました。そしてそれはテストプレイを重ねる内に、大人も同じだと気付きました。とても今時な発見でした」(トムさん)

娘に、子どもたちに、そして大人たちにもっと自由に、好きなだけ絵を描いてもらいたい。そんな想いから、「愛よさらば」を何としてもリリースしなくてはいけないと、強く感じたとトムさんは言います。

存在意義を世に問う

しかし、インディーゲームの世界も、今や自分が愛を注いでゲームを作れば売れる、という時代ではなくなっているとトムさん。そこでトムさんは、クラウドファンディングや、インディーゲームイベントBitSummit(2025年のBitSummit the 13th Summer of Yokai)への出展などを通して、「愛よさらば」の存在意義を世に問うてきました。

「クラウドファンディングでゴールを達成できなければ、開発は中止。BitSummitでも、反響がなければ開発はやめる。そんなふうに考えていました。幸いなことに、クラウドファンディングは目標を大きく上回る支援をいただき、BitSummitではメディアハイライトアワードをいただきました」

こうした紆余曲折を経てリリースされた「愛よさらば」は、多くの人たちからの支持と後押しを糧に、定期的なアップデートや新要素が加えられ、遊ぶ人の「絵ゴコロ」を評価し続けてくれています。

次なる挑戦へ向けて

現在は、4人の絵師との物語が楽しめる「愛よさらば」。追加要素として、「お題」に応える「チャレンジモード」なども用意されています。さらに、色々なお絵描きのお題やミステリー、グラフィックの大幅リニューアル、そして新たなシナリオも準備中とのことです。

ちなみに「愛よさらば」は、iPhoneと指での操作でも楽しめますが、iPadとApple Pencilの組み合わせで遊ぶのが最も快適とされています。あなたも共に、絵を描いて反逆の狼煙を上げませんか。