舞台裏

Fateの歴史物語の魅力とは

Fate/Grand Order

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15年を超えるFateの歴史そのものが、「Fate/Grand Order」の武器です

奈須きのこさん

ロールプレイングゲーム「Fate/Grand Order」(以下「FGO」)の魅力の一つは、その物語の深さと広がりにあります。

何者かに過去の歴史が書き換えられたことで、絶滅することが決まってしまった人類の未来。それを再び正しい姿に戻すために、「人類絶滅の原因」と仮定された歴史上の特異点に向かう主人公と英霊(サーヴァント)たち。

主人公であるあなたは、アーサー王やジャンヌ・ダルクといった歴史上の人物たちの主人(マスター)となり、彼らを英霊として召喚し、コマンド式のカードバトルを繰り返して、数奇な運命に立ち向かうことになります。

奈須きのこさんは「FGO」のシナリオライターで、ゲームの原案、全体構成や総監修を務めてきた作家です。「FGO」の配信が開始されたのは2015年ですが、奈須さんが初めて「Fate」の世界を生み出したのは、2004年のことです。それ以降、アニメやマンガなど、ジャンルを超えて広がり続けるその歴史について、彼はこう語ります。

「FGO」の物語の源泉となるノベルゲーム「Fate/stay night [Realta Nua] 」の一場面。

「振り返ってみると、あっという間だったと感じています。2004年にPC用のゲームとして『Fate/stay night』を作った時は、一つのコンテンツの寿命は長くても3、4年だと思っていました。それ以上続けるのも困難だろうと。ですが、様々な新作を出すことで『Fate』のシステムは今も続いていて、その歴史そのものが『FGO』の大きな武器になってくれたのだと思います。それは『Fate』が積み重ねてきた物語への『信頼』や『期待』みたいなものだと思います」

「『FGO』は新しいプラットフォーム、新しいゲームとして世に送りだされました。それがポテンシャルを発揮するまでプレイヤーに見守ってもらえたのは、ここまでのバックボーンがあったからだと感謝しています」

現在ではiPhoneやiPadでプレイできる「Fate/stay night [Realta Nua] 」は、ある街で暮らす主人公が、あらゆる願いを叶える「聖杯」を巡る戦いに立ち向かう物語を描いたノベルゲームです。英霊とは何者で、何のために魔術師に従うのか。また、セイバーやアーチャーといった彼らの属性は、どのような意味を持つのか。「FGO」の基盤となる世界観が、その中に凝縮されています。

それぞれの英霊(サーヴァント)には物語があります。そして、ゲームをプレイするあなた自身にも、物語があるはずです

奈須きのこさん

「『Fate/stay night』は『FGO』と少し違って、プレイヤーに一人で物語世界と向き合って、没入してほしいというゲームです。『FGO』が、もし世界規模の災害が起きた時にどうすべきか、というマクロな視点のゲームだとしたら、『Fate/stay night』は、もしあなた個人が聖杯戦争という事件に一人で向き合うとしたらどうすべきか、というミクロな視点のゲームです。ただし、視点はミクロでも、スケールは違っていても、その重さは変わりません。世界を救う『FGO』と、自分自身と戦う『Fate/stay night』、ともに根底にあるものは同じです」

「『FGO』では断片的にしか語られていないですが、それぞれの英霊にはバックボーンとなる物語があります。そして、ゲームをプレイするあなた自身にも、物語があるはずです。『Fate/stay night』をプレイすることで、それを強く認識できると思うんです。だから、その後で『FGO』に戻ってもらうと、また味わいが変わると思います」

「FGO」のストーリーは、英霊と化した歴史や伝承の中の様々な人物との会話を重ねることで進んでいきます。

「FGO」の物語は、ゲームの中で新たなシナリオが配信されることで続いていきます。奈須さんは今では数人のライターと共に、その物語を書き続けています。そして、その過程や進化は、このようなものだと言います。

「進化といっても、自分の芸風はもう定まっているのでそこまで変わっている気はしないのですが……。例えば小説の場合は、その作品が面白くてもつまらなくても作家だけの責任ですので、自分が良いと思う要素ですべてを固めます。ですがゲームの場合は100人や200人で作っているので、自分だけの物差しで進めるのは愚かしいことです」

「せっかく多くの人間が集まって作っているのですから、そのパワーを使わないのはもったいない。まずは作る。その後に出来上がったものを見て、よりそのゲームを生かすテキストに変えていく。そういう工程が、書き手としての自分を常に変化させて、時には進化しているように見せているのかもしれないですね。とくに、スマートフォン向けゲームは『更新し続ける世界』を提供するものですから」

すでに500万文字を超えるボリュームで描かれてきた「FGO」の物語は何を描き、ここからどこへ向かうのか。インタビュー後編では、さらにその核心について伺います。

※インタビューは2018年に実施しました。

シナリオライター
奈須きのこインタビュー