MEET THE DEVELOPER

ドラゴンクエスト 伝説と勇者の誕生

1986年5月27日にエニックス社(現在のスクウェア・エニックス社)から、家庭用ゲーム機のソフトとして発売された「ドラゴンクエスト」は、人類を新しい世界への冒険へと誘いました。

そのドラゴンクエストシリーズの1作目から最新作まで、制作の中心的クリエイターとして関わり続けているのが堀井雄二さんです。堀井さんは、「ドラゴンクエスト」のシナリオだけでなく、独創的なモンスターや町の設計、フィールドに並ぶアイコンのデザインコンセプトなど、まさにゲームの根幹を生み出した一人です。

ドラゴンクエストシリーズは常に新しい技術を積極的に取り入れ、日本だけでなく世界のゲーム業界を牽引してきた作品の一つとも言えます。ここではドラゴンクエストの父とも呼ばれる堀井さんに、ドラゴンクエストの開発の歴史を振り返りながら、ゲームとテクノロジーの未来について話を聞きました。

ゲームとテクノロジーについて

堀井さん:「ゲーム機が売れるようになって、開発者としていろいろなゲームを作りやすいテクノロジーが生まれてきました。描画速度やポリゴン数(編注:3DCGモデル制作における多角形データのこと)なども進化して、表現できることが広がっていきました。エンターテイメントの作品がたくさんの人に愛されることで、より良いものを作るためにテクノロジーが進化してきた、それはある程度平和な世界の中だからできたことでもあるので、素晴らしいことだなと思います」

ドラゴンクエストのシリーズを開発してきた中で、堀井さんがテクノロジーの進化でゲームの内容自体が変わった、と最も強く感じたのは「ドラゴンクエストⅧ 空と海と大地と呪われし姫君」を制作した時だったと言います。

堀井さん:「ポリゴンで全体的に作られていて、立体的なマップ上に、木や城などが置かれて、そこを歩いていく景色は、それまでの平面のマップ上の移動と感覚が大きく異なって、象徴的でした。それまでの平面のマップ上でも、頭の中では世界を歩いている気持ちでしたが、フルポリゴンの立体的な表現だと、自分が世界の中をどこまでも歩いて行ける、という感覚が強まりました。歩く喜びがありました。より冒険している感じが出せたように思います。今はもう当たり前のように感じるかもしれませんが、最初にフィールドを走ったときは衝撃的でしたね」

フィールドを歩いて行ける喜びは、シナリオ作りにも影響したと言います。

堀井さん:「それはもう『ドラゴンクエストⅧ』のサブタイトルにも如実に表れていて、『空と海と大地と呪われし姫君』と入れているのですが、最初に空と海と大地、とプレイヤーが自分で動く場所が一つの主役として入っています」

堀井さん:「また、オンラインで人とつながる、という要素をゲームに取り入れた時も、画期的な変化だなと感じました。『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』では、ローカルネットワークを使って、プレイヤー同士が地図を交換する仕組みを取り入れたり、『ドラゴンクエストX オンライン』ではオンラインのフィールド上に別のプレイヤーが存在することで、それまでとは違った空間が作れたというのも感動的でした。今から振り返ると、すごいスピードで進化してきたと思います」

「ドラゴンクエストウォーク」では位置情報を活用したゲーム体験が楽しめます。

新しい技術は積極的に取り入れようとしてこられたのでしょうか。

堀井さん:「できるなら取り入れたいなと思っています。VR(仮想現実)の技術もまだ過渡期だと思いますが、いずれは映画などで描かれているように、ゲームの世界の中に入っていけたらおもしろいですね。そこまでいくにはまだ時間がかかると思いますが。ゲーム制作や技術開発は数年間かかるので、制作途中で新しいものを後から取り入れるのは大変です。なので、今ある最高の技術で構想して作り続けています」

1983年のApple Fest

堀井さん:「実は1983年に開催されたAppleのイベントの『Apple Fest』に行ったことがあります。エニックス社のゲームコンテストに入選した人たちとサンフランシスコに行くことになって、イベントを視察しました。当時の週刊少年ジャンプ編集部の鳥嶋和彦さんにその話をしたら、彼も行きたいと言って一緒に行くことになり、現地を取材して記事にして出しました。会場でいろいろ見た中で、『ウィザードリィ』をやりたいと思い、帰国後にApple IIを買いました。『ウィザードリィ』がとても楽しかったですね。Apple IIで、主にゲームばかり遊んでいました」

「その後、Apple IIで『Ultima I』に出会い、『ウィザードリィ』も含めてロールプレイングゲームというものに夢中になりました。その時に、このシステムに物語をつけたら面白いのではないか、と思いつきました。物語という一つのレールの上を遊んでもらう、しかも同時にそのレールから外れても楽しめる、プレイヤーに自由のあるかたちを構想しました。なので、ドラゴンクエストが生まれた最初のきっかけは、1983年に行った『Apple Fest』と言っても過言ではないかもしれませんね。その後、しばらくはApple製品を主に使っていましたし、今でもiPhone 12 Pro Maxを使って、ドラゴンクエストのゲームを遊んでいます」

これからのテクノロジーが
ゲームにもたらすもの

今後、ゲームを作る上で、どのような技術が登場したら面白いと思いますか。そうした技術が可能になった時、堀井さんの物語の作り方は変わっていくのでしょうか。

堀井さん:「プレイヤーが主人公として、物語を体験していく部分は変えないと思います。ただ、もし将来的に空間認識や五感の知覚などすべてを含めた体験が可能になるとすれば、よりリアルな世界を体験できるということですから、今以上にプレイヤーを喜ばせたり、またイタズラも仕掛けられるので、それを考えるのは、とても楽しい作業だと思います」

物語を作る

堀井さん:「人生は一度だけです。だから、小説や映画などで別の人生を体験することは、人類にとって一番の遊びだと思うのです。ゲームは主人公としての自分が思い通りに動けるので、物語を自分のもう一つの体験として体感しやすい。それを可能にするために、ドラゴンクエストの物語は、線ではなく面で作っています。特定のルートだけが用意されているのではなくて、どこへ行ってもいいように、どの順番で体験してもいいようにするというのを、仲間とのやりとりだけでなく町の人との会話でのセリフを作る時にも心がけています」

「プレイヤーがストーリーというレールから寄り道をして、好きに自由に移動しても、その場所を訪問したことで、さらに別のことができるようになる、といった作り方を心がけています。僕自身イタズラが大好きなので、いかに意表を突くかも常に考えています。泊まって、朝、起きたら人が誰もいないとか。あるとき突然、王様にさせられたりとか」

第1作目の「ドラゴンクエスト」で、主人公は一言も発しないのにすべて会話でドラマが成立していくのは、フィクションコンテンツの脚本としては特殊な作り方だと思うのですが、こうした形にすることは最初期から設定していたのでしょうか。

堀井さん:「そうですね。主人公はプレイヤー本人であると決めていたので、プレイヤーが思ってもみないことを主人公が勝手に話してしまうと、主人公とプレイヤーが乖離してしまうと思ったので、主人公は直接は話さない設定にしました。主人公が直接話さなくても、まわりの人の台詞から、物語が進行するように工夫しました」

ドラゴンクエストの未来

堀井さん:「ゲームを通じて将来的に空間認識や五感の知覚などすべてを含めた体験が可能になれば、と話しましたが、実はリアルな空間でゲームを体験できる場所として、僕の故郷の淡路島に屋外型のフィールドRPGアトラクション『ドラゴンクエスト アイランド』をオープンしました。王様から依頼をうけて、魔王を倒すために、町や森を冒険する体験型のアトラクションです。もし機会があれば、皆さん、ぜひ遊びに来てください」

ドラゴンクエストの物語は、いつまで続いていくのでしょうか。

「それは僕もわからないですが、求められる限り続いていくと思います。スタッフも育っているので、僕がすべてをやらなくてもドラゴンクエストは作っていけるようになってきました。そうして作ってきたタイトルにも、変わらずドラゴンクエストの心意気は宿っていると思います。プレイヤーの方が求める限り、作り続けていきたいと思っています」

勇者とはどういう存在でしょうか。

堀井さん:「『ドラゴンクエストXI』では、勇者は決して諦めない人と定義しました。僕は勇者は一人ひとりのプレイヤー、自分自身だと思うのです。誰でも勇者になれる、自分の人生の。だから、頑張って勇者として生きてほしいと思います。自分を勇者にできるのは、自分しかいません。人生はロールプレイングです」

ドラゴンクエストシリーズのゲーム

堀井雄二さんのインタビュー(前編)

© 1986, 2013 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
© 1987, 2014 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
© 1988, 2014 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
© 1990, 2014 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
Developed by: ArtePiazza
© 1992, 2014 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
Developed by: ArtePiazza
© 2004, 2013 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
© 2019‐2021 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.