舞台裏

Fate/Grand Orderシナリオ制作への想い

Fate/Grand Order

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サービス開始から8年の歳月を超え、今なお新たな物語が紡がれ続ける「Fate/Grand Order」(以下FGO)。

未来が失われた世界を元に戻すための、壮大なスケールで描かれる冒険と、それを彩る多様なイベントが織りなす本作の魅力は、緻密に作り込まれた世界観、そして細部まで練られたストーリーにあるといえるでしょう。

「魔術師(マスター)」である主人公が、歴史や神話・伝承上の人物を「英霊(サーヴァント)」として召喚し、その力を借りて様々な戦いに身を投じる物語は、どのように生まれるのでしょうか。FGOの総監督、奈須きのこさんに、シナリオ作りについて伺いました。

Fateの世界観と個性のコラボレーション

8周年を迎えたFGOは、第1部の7つの「特異点」、第2部の7つの「異聞帯」の冒険を経て、現在「奏章」という新たな展開を迎えています。そんなFGOの構想は、その時点から2年くらい先まで予定が立てられているといいます。

奈須きのこさん:「メインストーリーは最初に構成を決めるので、更新する時期がある程度固まっています。それに加えて、いつ頃どんなサーヴァントを実装するかを決め、その時期に合わせてイベントを考えています。

シナリオの担当は、ライター陣が3人と、ピンポイントで手伝ってもらう人が数人います。メインストーリーの第1部と第2部では、前半部分の章をライター陣に振り分け、自分は5章以降をまとめる役割を担いました。各ライターにはテーマとやるべき事を提示して、『あとは好きにやっていいよ』と伝え、章ごとにライターの味を出してもらいつつ、その時期に実装されるサーヴァントを活躍させ、バトンタッチしていく。そんな形で進めました。書き上がったシナリオは、自分が最終的に監修させてもらっています」

メインストーリーではFGOの本題となるストーリーを展開しつつ、合間に配信されるイベントのシナリオは、基本的に楽しくやろう、というスタンスで作られています。

奈須さん:「メインストーリーは正史というか、FGOという物語の中心なので、すべてのプレイヤーに遊んでいただくものです。いつでもプレイできるものですね。一方、イベントは季節ごとの催しなのでプレイ期間が限定されるため、その時期は忙しくてプレイできない……という方に合わせて、『長い旅の途中で、もしかしたらあったかもしれないエピソード』として扱っています。別時空のようなイメージですね。

人それぞれの遊び方があるので、イベントではメインストーリーに沿った情報のアップデートをしながら、最新のものを提供するけれども、絶対に内容を知っていなくてはいけないものではない、という位置づけです。イベントのシナリオは、イベントに登場するサーヴァントに合わせた逸話や、時期的に熱い話題などを取り入れて、臨機応変に作っています」

このようにFGOでは、硬軟織り交ぜたシナリオを楽しめます。その理由は、FGOが「ぱっと見で面白そう、楽しそう、という印象を持ってもらいつつ、遊んでみると奥が深いもの」を目指して作られているからです。Fateシリーズの世界をより深く知ると、さらに楽しめますが、プレイするのにFateシリーズの知識は必ずしも必要ないと奈須さんは話します。

奈須さん:「『Fate/stay night』をご存じの方は、FGOをプレイしたら『すごくFateしてる』と感じていただけると思います。それは、根底にある設定が変わっていないからです。でも、もちろん何も知らない方でも楽しめるように作っていて、そこは徹底しています。FGOで、初めてFateシリーズの世界に触れる方が大多数ですから」

イベントの内容を、重めのものと軽めのもので作り分けているのも、FGOに詳しい人が深く楽しめるシナリオと、新たにFGOを遊び始める人が楽しめるシナリオのバランスをとる意図があるといいます。

奈須さん:「マップがあって、楽しいけれどプレイするのに時間がかかるイベントと、マップはなくて、日々軽いテキストを読む程度で終わるイベントを交互に実施することで、幅広い方に楽しんでいただけるのではないかと考えています」

イベントのシナリオは、外部のライターが手がけることもあり、結果的にFGOは、基礎となる世界観を共有しつつ、ライターそれぞれが個性を発揮する、シェアードワールド(共有世界)のようになっているのです。

シェアードワールドのようなFGO世界

FGOの世界が、シェアードワールドになることは、当初は想定していなかったと奈須さんは言います。

奈須さん:「実は20年くらい前に、虚淵玄さん(後にFGOの第2部 第3章『人智統合真国 シン』のシナリオを担当)が『いずれFateの世界は、アメリカンコミックスみたいにマルチバース化していけばいいじゃない。していけるよ』っておっしゃっていたんです。でも当時はそこまでFateという作品を続ける気はなかったので、『そんなの無理ですよ』なんて言っていたんですが、FGOが始まって、正鵠を射ていたなと思いました。

FGOの根幹は、ある意味オーソドックスな伝奇もので、そこにサーヴァントシステムという、過去の英霊を呼び出して、いろいろなことができる仕組みが組み合わさり、多様な話が作れるようになりました。

自分一人では、『Fate/stay night』レベルの物語を毎年書くことはできませんが、FGOという大きな箱ができたので、ライバルとして切磋琢磨しているライターさんたちを招いて、みんなで毎月すごいものを作ろう、と考え、今のような形になってきました。自分はシェアードワールドにするつもりはなかったのですが、結果的になってしまったな、という感じです」

シナリオを執筆する他のライター陣が、このFGOの世界をどう見ているかを伺うと、こんな答えが返ってきました。

ライターAさん:「『絶対に崩しちゃいけない・それだけで最高においしい奈須さんのFate世界』というホールケーキがまずあって、その上の一部の担当部分に『ちょっとチョコのせて載せてみていいですか!』『ここにイチゴとか!』というように、周りとの味の調和が崩れないようにトッピングをやらせてもらってる……みたいなイメージです、自分は!」

ライターBさん:「シェアードワールドは、わりと好き勝手に作るイメージがあるので、自分の認識とはちょっとズレますかね。どちらかというと巨大コンピュータシエニの山に『この設定とあの設定いける?』って問い合わせをして『ガガガ……その設定いけるけど、あの設定はちょっとムリ……』『じゃあこういう範囲で書こう』みたいな感じです。基本TYPE-MOONの設定からはみ出さないように気を付けています」

ライターCさん:「シェアードワールドを『設定を共有した個人戦の群れ』であるとすれば、本作は『設定だけでなく意思まで共有したチーム戦』である、という認識です」

ライターDさん:「他メディアが陸上に建てられた華やかな遊園地や精密なお城の集合、だとすると、FGOは増改築を繰り返しながら今まさに航行中の豪華客船って感じでしょうか。目新しさも船体のバランスも、もちろん舵取りもそれぞれ大事です」

奈須さん:「それぞれ微妙に捉え方は違っているようですが、関わる人たちが、全員をリスペクトしながら、おごらない。今もFGOのイベントを、フットワーク軽くいい感じで作れているのも、そのあたりに要因があるのかなと思います。

正直な話、自分たちはスマートフォンが生まれる前からゲームを作っていた世代なので、感覚的には、最新鋭のライターではありません。だからこそ、常に今の流行について行けるように、自分たちの芸風は壊さないまま、ソーシャルゲームとしていつまでも伸ばせるものを作ろう、という挑戦の気概が常にあるので、そこで心が一つになっていると思います」

メインストーリー第1部の見どころ

このように、いろいろな人の想いを乗せて生まれてきたFGOのメインストーリー。そこに込められた、総監督である奈須さんの想いを、このように話してくださいました。

奈須さん:「第1部は、世界史の勉強というとすこしおこがましいですが、自分たちが今いる現代が、どんな人たちの頑張りや生活の結果こうなったものなのかを知ってほしい、という想いで描いたんです。

FGO第1部を書いていた頃は、そのあたりを軽んじる風潮があって。古代人の文明は大したことなかった、と考える人たちもいたんですね。でも、ローマなんてロストテクノロジー(失われた技術)が山ほどある時代だし、それぞれの年代で素晴らしい発想、発明があったからこその現代です。そういった過去の歴史に思いを馳せながら、『今』の娯楽を味わってほしい、と考えました。

ですから第1部はぜひ、人類史のキーポイントを感じながらプレイしていただきたいです。それと、できれば第1部に登場したサーヴァントの『幕間の物語』もプレイして、第1部にしか存在しないカルデアの、Dr. ロマンとか、ダ・ヴィンチちゃんとかときちっと交流して最終章を迎えていただけるといいんじゃないかと思います。

第1部のストーリーは、ある意味王道的な流れですし、立ちはだかる敵の考え方も、今までいろいろなエンターテインメントで語られてきたことだと言えます。人間が生きる上で普遍的なテーマです。その、『ある意味使い古されたもの』だからこそ、新しい技法で提供しようと務めました。第1部終章への流れは『この題材を、FGOではこう語るのか』と感じてプレイしていただければ幸いです。

……と堅苦しいことをお伝えしましたが、お気に入りのサーヴァントができたら、ぜひそのサーヴァントを集中的に強化して、共に冒険をしてください。読み物として作ってはいるけれど、ロールプレイングゲームなので、サーヴァントを育てながら世界を救っていく体験が一番楽しい。

自分の好きなサーヴァントが、自分で育てたからバトルで強い、っていう体験はすごく気持ちがいいので、シナリオの中にそういうプロットを盛り込んでいきましょう、ということはすべてのライターさんにお伝えしています。

ちなみに第2部にもまた自分なりの想いがあるのですが、これは別の機会にお話しできたらと思います。

FGOのストーリーをまだ味わっていない方、あるいはもう一度振り返ってみたいという方は、ぜひこのお話を心の隅っこにとどめつつ、第1章を体験していただければ、と思います」

FGOのこれから

9年目、そしてその先へ向けて、FGOはどうなっていくのでしょうか。

奈須さん:「よく言いますが、自分の体力が続く限り、頑張っていきたいと思っています。遊んでいただいているみなさんに求められている間は続けるのが、プレイヤーのみなさんへの最大限の感謝だと思っていますし、ここで『はい、おしまい』とは簡単には言えません。

かつては、作家の名前で作品を買う時代がありましたが、今はもう完全に逆で、ブランドとその先の面白さが一番の信頼になっていると思うんです。FGOも、様々なライターさんがシナリオを書こうとも、一定のクオリティを担保して、やっぱりFGOは総じて面白いよね、というものにしていきたいと考えています。

これからFGOをプレイする、という人には、長い旅路が待っていますが、そのプレイ時間に応えられるだけのエンターテインメント、面白さを詰め込んでいます。2Dで描かれるバトルアクションも年々進化していて、気がつけば唯一無二のものになっていました。これも開発を担当するラセングルスタッフの努力の結晶です。このインタビューで興味を持っていただけなら、軽い気持ちで触ってみてください。サーヴァントもシナリオも、きっと好みのものがあると思います」

Fate/Grand Orderをより深く知るストーリー